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ファルコーネ判事


1992年5月23日、つまり25年前の今日、イタリア共和国シチリア島パレルモのプンタライジ空港から市内に向かう自動車道を、時速約150キロ(140キロ~160キロの間と推測される)のスピードで走行していた「反マフィアの旗手」ジョヴァンニ・ファルコーネ判事の車が、けたたましい爆発音とともに中空に舞い上がった。

それはマフィアが遠隔操作の起爆装置を用いて、1/2トンの爆薬を炸裂させた瞬間だった。正確に言えば1992年5月23日17時56分48秒。ファルコーネ判事と同乗していた妻、さらに前後をエスコートしていた車中の3人の警備員らが一瞬にしてこの世から消えた。マフィアはそうやって彼らの天敵であるファルコーネ判事を正確に葬り去った。

大爆殺を指揮したシチリアマフィアのボス、トト・リィナは、その夜部下を集めてフランスから取り寄せたシャンパンで「目の上のたんこぶ」ファルコーネ判事の死を祝った。当時、イタリア共和国そのものを相手にテロを繰り返して勝利を収めつつある、とさえ恐れられていたトト・リィナは得意の絶頂にいた。が、実はそれが彼の転落の始まりだった。

敢然とマフィアに挑み続けてきた英雄ファルコーネ判事の死にシチリア島民が激昂した。敵対する者を容赦なく殺戮するマフィアの横暴に沈黙を強いられてきた島の人々が、史上初めてマフィア撲滅を叫んで立ち上がった。その怒りは島の海を越えてイタリア本土にも広がった。折からのマニプリーテ(汚職撲滅)運動と重なってイタリア中が熱く燃えた。

世論に後押しされた司法がマフィアへの反撃を始めた。翌年1993年の1月、ボスの中のボスといわれたトト・リィナをついに警察が逮捕したのだ。マフィアはその前にファルコーネ判事の朋友ボルセリーノ判事を爆殺し、リィナ逮捕後もフィレンツェやミラノなどで爆弾テロを実行するなど激しい抵抗を続けた。しかし司法はマフィアの一斉検挙を行ったりして組織の壊滅を目指して突き進んだ。

1996年5月20日、ファルコーネ判事爆殺テロの実行犯ジョバンニ・ブルスカが逮捕された。彼はマフィアの襲撃防止のために高速走行をしていたファルコーネ判事の車の動きを、近くの隠れ家から双眼鏡で確認しつつ爆破装置を作動させた男。フィレンツェほかの爆弾テロの実行犯でもある。100人~200人を殺したと告白した凶暴な殺人鬼でありながら、リーダーシップにも優れた男であることが判明している。

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爆殺現場

ブルスカは当時マフィアの第3番目のボスと見られていた。組織のトップはすでに逮捕されたリィナ。ナンバー2が1960年代半ば以来逃亡潜伏を続けているベルナルド・プロヴェンツァーノだった。ブルスカは逮捕後に変貌して司法側の協力者になり、逃亡先からマフィア組織を指揮していたプロヴェンツァーノは2006年4月に逮捕され、昨年6月、83歳で獄死した。

現在のマフィアを指揮しているのは、トト・リィナが逮捕された1993年から逃亡潜伏を続けている マッテオ・メッシーナ・デナーロ(Matteo Messina Denaro 55歳)と見られている。警察はこれまでに何度か彼を逮捕しかけたが失敗。獄中のトト・リィナとなんらかの方法で連絡を取っている、という見方も根強いが真相は分かっていない。

メッシーナ・デナーロが逮捕される時、マフィアの息の根が止まる、という考え方もあるが、それは楽観的過ぎるどころか大きな誤謬である。25年前、反マフィアのシンボル・ファルコーネ判事を排除してさらに力を誇示するかに見えたマフィアは、そこを頂点に確かに実は崩壊し始めた。だがその崩落は四半世紀が過ぎた今もなお全体の壊滅とはほど遠い、いわば壊死とも呼べるような不完全な死滅に過ぎない。

イタリアの4大犯罪組織、つまりマフィア、ンドランゲッタ、カモラ、サクラ・コローナ・ウニータのうち現在最も目立つのはンドランゲッタである。彼らを含むイタリアの犯罪組織を全て一緒くたにして「マフィア」と呼ぶ、特にイタリア国外のメディアのおかげで、真正マフィアは表舞台から姿を消したのでもあるかのように見える。だがその状況はマフィア自身がその現実をうまく利用して沈黙を守っている、とも考えられるのだ。

その沈黙は騒乱よりも不気味な感じさえ漂わせている。トト・リィナの逮捕後、潜伏先からマフィア組織を牛耳ったプロヴェンツァーノが昨年獄死したとき、元マフィア担当検事で上院議長のピエトロ・グラッソ氏(Pietro Grasso)は「多くの謎が謎のまま残るだろう。プロヴェンツァーノは長い血糊の帯を引きずりながら墓場に行った。おびただしい数の秘密を抱え込んだまま・・」とコメントした。

マフィアの力は、前述してきたように、過去20数年の間に確実に弱まってはいる。ファルコーネ判事の意思を継いだ反マフィア活動家たちが実行し続ける「マフィア殲滅」運動が、じわじわと効果をあげつつあるのだ。またイタリアがEU(欧州連合)に加盟していることから来るマフィアへの圧力も強いと考えられる。しかし、マフィアは相変わらず隠然とした勢力を保っている。反マフィアのピエトロ・グラッソ氏が指摘するように、多くの事案が謎に包まれた犯罪組織は絶えず蠕動し続けていて、死滅からは程遠いと言わざるを得ないのである。