切り取り無題
メルケル首相の目の不安?断固たる意志?


9月24日に投開票が行われたドイツ連邦議会選挙では、全709議席のうち、メルケル首相率いる中道右派のキリスト教民主・社会同盟が246議席を獲得して第1党の座を確保した。

最近ほぼ100万人にも上る難民移民を受け入れたメルケル首相は、激しい非難を浴びて一時期支持率が大幅に低下。4選は不可能ではないか、というところまで追い込まれた。その後支持率は回復し、総選挙での勝利が確実視されていた。

しかし、今回は選挙前の309議席から246議席へと大幅に後退しての勝利であり、連立政権の樹立が難航しそうなほどに彼女の求心力は低下した。代わって大きな勝ちを収めたのは極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」である。

「ドイツのための選択肢(AfD)」はメルケル首相が進めてきた難民・移民政策への反発を糧に成長してきた。強硬な反移民政策を掲げ、特に反イスラム色が強い。モスクの尖塔・ミナレットを破壊するとまで公言し、イスラム教はドイツ文化の敵と主張する。

要するに米国のトランプ主義やフランスの極右国民戦線、オランダの自由党、またここイタリアの北部同盟などと同じ、排外主義を旗印に不寛容と差別とヘイトに凝り固まった、あるいは凝り固まる可能性を秘めた危険な集団である。

それらの極右勢力は、アメリカのトランプ大統領誕生をきっかけに大きく台頭し、第2次大戦前のナチスドイツやイタリアファシズム、また日本軍国主義などに匹敵する悪となって世界を席巻するのではないか、とさえ懸念された。

しかし、昨年末のオーストリア大統領選で、極右候補が敗れたのに続いて今年3月、オランダ総選挙でも極右の自由党が敗退した。また4月-5月に行われたフランス大統領選でも極右のルペン候補が退けられ、極右ポピュリズムの大波は実はトランプ大統領誕生をピークに萎縮し始めたのだと僕は考えた

極右の減退傾向は、反トランプ主義の旗手とも呼べるメルケル首相が、ドイツの総選挙で勝利することによって決定的になり、極端な場合は第2次大戦前の世相が復活するかもしれないという危険は、世界から徐々に消え去るものと見えた。そしてドイツのメルケル首相は予定通り4選を果たした。

ところが今回のメルケル氏の勝利は、辛勝と形容しても良いほろ苦い勝ちに過ぎず、選挙の真の勝者は日陰者であるはずの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だったのである。同党は 議席獲得に必要な最低得票率の5%を軽く突破したばかりではなく、94議席も獲得して一気に第3党に躍り出た。

ドイツ総選挙の驚きの結果は、トランプ米大統領誕生ほどのインパクトはもたらさなかったものの、下火になるかと見えた排外差別不寛容主義勢力が無視できない力を維持し、それは今後の風向きによっては大きく燃え上がる可能性を秘めている、という厳然たる事実を示している。

そうした動きは、あたかも北朝鮮と米国の交戦を期待してでもいるような安倍首相の「北へは圧力あるのみ」発言や、「北朝鮮を完全破壊する」と叫ぶトランプ節などとも連動している。ここイタリアにおいては「北部同盟」が同じ主張をしているが、抗議政党の五つ星運動もポピュリズムを武器に政治を弄んでいる、という意味では同じ穴のムジナである。

世界政治は今後も波乱万丈のドタバタ劇を演じながら、一歩間違えば前述した「第2次大戦前のナチスやファシズムや軍国主義などの悪」がはびこる地獄の再来、という未来図があながち荒唐無稽とばかりは言えない闇をはらみつつ進んでいるようにも見える。