レストラン店内でも注文できるファーストフードのギリシャ版ケバブ「ピタ・ギロス」
独断と偏見であえて世界の食のランク付けをすれば、ギリシャ料理は僕の中では世界で5番目に美味い膳である。
僕にとって世界で一番美味いのは日本料理。以下イタメシ、中華、トルコ料理、と続いてギリシャ料理がそれらの後を追う。
ギリシャ料理の中でも、国の最南端にあるクレタ島の食べ物が、これまでのところはもっとも美味しいと僕は感じる。
島なのだからクレタ料理には魚介類が多そうである。ところがクレタの島料理は肉が主体である。魚介膳はギリシャ本土よりも少ないのではないか、とさえ思う。
クレタ島の魚料理は、焼いたり煮たり揚げたりするだけのシンプルなものがほとんどだ。だが島だけに素材は新鮮である。
新鮮であれば魚介料理は常に美味い。刺身が美味いのも基本的にはそういうことだ。つまりレシピの単純を補って余りあるのが、魚介の活きの良さなのである。
深みのないクレタ島の魚料理の中で秀逸なのがタコ料理。タコ料理はギリシャ全体で好まれてさまざまな調理法があるが、ワインで煮込んだクレタ島のものが特に美味しいと思う。
前述したようにクレタ島は肉料理がメインの土地柄だ。主な素材は、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉である。ヤギ肉もあるのだろうが今回は出会わなかった。
ギリシャでもっともポピュラーな肉料理はおそらく「ギロス」と「スヴラキ」だろう。ギロスは肉をぐるぐる回しながら焼く料理。スヴラキは肉の串焼きである。
スヴラギに用いられる肉はいろいろだが、ギロスの素材は豚肉がほとんど。調理法や食べ方はトルコ料理のドネルケバブと同じである。イスラム教国のトルコでは豚肉の代わりに羊肉を使う。
ギロスは皿盛りでも提供されるが、ピタという薄いパンで包んでファーストフードとしても売られる。いわゆるギロピタあるいはピタ・ギロス。僕はレストランで両方を食べた。どちらもトルコの羊肉ドネルケバブに劣らないすばらしい味がした。
鶏肉料理も美味しい。ほぼ連日通ったレストランのカレー味のチキンは絶品だった。ビーチと宿泊先のほぼ中間に位置するその店は全ての料理が出色だった。
出される料理のどれもが絶巧なので、僕は一度あえてイタリア料理のパスタを頼んだ。クレタ島のレストランはほぼどこでも、イタメシのパスタとピザをメニューに組み入れている。
出てくる料理のすべてが美味しいその店で、もしもパスタがイタリア並みにうまければすごいことだと思った。シェフの力量を見てみたくなった。
だが、提供されたカルボナーラは最悪だった。いや、風味は良いのだが、パスタが茹で過ぎというのもばかばかしいくらいにやわらかくて、フォークにからまらずにちぎれてしまうほどだった。
イタリア以外の国では、専門のイタリアレストランでもない限りアルデンテ(歯ごたえのある)なパスタは余り期待できない。そこの店もさすがにイタリア風のパスタにまでは手が回らないようだった。
同店では、地中海旅行で僕が追求しているヤギ料理および羊肉料理のうち、後者も堪能した。子羊肉を柔らかく煮込んだ一品と羊肉をチーズと共に素焼鉢の中で焼いたひと皿。どちらも絶妙な味がした。
羊肉を素焼鉢に詰めて鉢ごと窯に入れて焼く料理は、トルコのカッパドキアの名物「壷焼きケバブ」の流れをくむように見えた。
カッパドキアでは壷をナイフでカチ割る演出が面白かったが、それ以上に味が印象的だった。店の素焼鉢の羊肉はカッパドキアのひと皿に勝るとも劣らない味がした。
車で遠出をした島の西北端に近いキサモスのレストランでは、羊の成獣の肉を巧妙に焼き上げた一品にも出会った。強烈な臭みを「風味」以外のなにものでもない、というところまで消し去った手腕は素晴らしいと思った。
今年はスペインのカナリア諸島のうちのフエルテベントゥーラ島で、ヤギの成獣の絶品料理にも出会った。クレタ島で食べた羊の成獣の味は、カナリア諸島のそれを彷彿とさせる美味しさだった。ムスリム圏を含む地中海の羊&山羊料理の奥はひたすら深い。。。。
つづく