オープニング3人立ち800pic
一日に2度放送される衛星放送JSTVの画面より


僕はNHKのファンである。のみならず、仕事でもNHKには大いにお世話になった。それなのでNHKへの批判はあまり本意ではない。しかし、小言をいうのも支持者の義務の一環、とも考えるのであえて書くことにした。

現在は「国際報道2017」となっているNHKの国際ニュース番組は、2014年に「国際報道2014」として始まり年毎に数値を変えて今に至った。

2014年に始まった番組を僕は、BBCやCNNと並列する形でずっと見ている。情報確認とともに、少し大げさに言えば「日本の視点」の検証、というつもりもある。むろん他の報道番組も同じではあるけれど。

「国際報道2017」はNHKらしく中身の濃い良くできた番組である。取材力や情報収集力またそれを活かす番組構成力など、など、どれをとっても民放など足元にも及ばないレベルだ。世界のトップ放送局の報道番組と比較してもほとんど遜色はないと思う。

今年に入ってから同番組はさらに雰囲気が良くなった。それは主に花澤雄一郎キャスターの、優秀だが少しも気取らない人柄によるものである。同時に番組設定に少しの違和感ももたらした。サブの 増井渚キャスターの立ち位置があまり良くないと感じるのである。

メインの花澤キャスターとやり取りをする時の増井キャスターの役割が多くの場合、いわば「かわいい無知な妹」的なのである。あるいは「男性に教えを請う無知なかわいい女性一般」を象徴的に示すような役回りなのである。

彼女は特に国際情勢については「ほとんど何も知らず、逆に何でも知っている花澤キャスターに教えを請う」という設定。それはよく気をつけて見るとひどく危なっかしい構図だ。他のジャンルならともかく、シリアスな報道番組には適さないように思う。

NHKのもう一つの情報・報道番組に「これでわかった!世界のいま」というのがある。欧州では日曜夜にオンエアされる。そこでは国際情勢について講義をするNHK記者に、生徒であるおバカな女性タレントがからむ。「国際報道2017」の一部の設定に重なる。

だが「これでわかった!世界のいま」の場合は、天然ボケの明るい女性が面白おかしく記者にからむバラエティー的番組であり、そ知らぬ振りで女性を貶めているとも見られかねない構成ではない。また生徒は女性ばかりではなく男性も加わる。

そこでは「何でも知っている記者」が「おバカな女性」にからまれてたじたじとなり、彼自身が「おバカ」に見られるような仕掛けなどもあって楽しい。「おバカな女性」は実はバカではない、ということが良く分かるのである。

「国際報道2017」の一部の設定の、男はなんでも知っていて何も知らない女性が男から教わる、という構成は手ひどい女性差別にほかならない。それは日本のみならず、世界の全ての地域で実践されてきた「伝統」である。だがもはやそれは許されない。

そうした女性差別は、例によって欧米が先導して無くしつつある。女性たちが立ち上がって差別に敢然と挑んだからだ。差別をする側の男たちは、差別される側の女性たちの声によって差別に気づいた。そして変わろうと決めて、今この時も変わりつつある。

それはいわば世界の常識である。それに気づかないのか、あるいは気づかない振りをしているのか、NHKが少し心もとない設定の番組を作り上げているのは不思議だ。ジェンダーギャップに神経質な世界の人々が見たら糾弾されかねない。

一般論として、女性を見下した構成の番組は言うまでもなくNGだが、「国際報道2017」の場合には個別の状況も少々心細い。それというのも、「無知な女性」の役割を負わされているサブの 増井渚 キャスターが、明らかに有能な女性であることが見て取れるからだ。また有能でなければNHKが採用するはずもない。

彼女は世界の動向についていわば全知の兄、花澤キャスターに「教えを請うおバカな妹役」をそつなくこなす時以外は、きりっと襟を正して、彼女自身が有能なキャスターであることの一端を披瀝してニュースを読み、伝える。それが彼女の真の姿らしいと分かる。

増井キャスターの有能を示すと見えるもう一つの要因がある。松岡忠幸キャスターが、「せかトレ」(この命名はもう少しなんとかならないもだろうか)のコーナーなどで、アドリブ的に彼女にコメントを求めるとき、増井キャスターは自然体でさらりと思うところを述べる。

それは彼女の咄嗟の思いつきの短い感想に過ぎず、また深みがあるというような内容のコメントでもないのだが、「知ったかぶり」をせず、また「ひるむ」こともない彼女の自然な反応が印象的だ。そこでも彼女の能力の高さが見えるように思う。

NHKはかつて定時の報道番組などで、男女の出演者が冒頭で挨拶をするときに、「微妙に」女性の声を遅らせる「姑息で激しい男尊女卑」の仕組みを取り入れていた。

現在の7時のニュースやニュースウオッチ9などでは、男女のアナウンサーが同時に挨拶したり、さらに進んだケースでは女性キャスターが男性キャスターの前に挨拶したり、の作り方をしている。

世界の「男女平等のトレンド」に逆らう編成への視聴者からの指摘や糾弾もあったのだろうが、NHKは意識して差別をなくす努力をしていると思う。そんな時代に「国際報道2017」が、過去の遺物であるはずの「かわいいおバカな女性と物知りの男」の設定を堂々と展開しているのは、返す返すも不思議だ。

聞くところによると、増井渚キャスターはフリーランスの人らしい。ならばもしかすると、彼女が「NHK所属ではない」フラーランスのスタッフ、という事実が無意識のうちにNHK側の少しの見下しの心となってあらわれて、番組構成に影響しているのだろうか。もしもその推測が当たっているならば、二重に罪深い仕業と言わざるを得ない。

奇怪な情景のうちの救いは、「全知全能」の役割の花澤キャスターが、「おバカな妹」を決して上から目線で見ないことだ。驕りのひとかけらも感じられない誠実な口ぶりで、彼は増井キャスターに応答する。

それは見ていて快いものだが、彼は同時に「時代遅れの設定」を居心地悪く思っている様子でもない。世界各地を取材する気鋭の記者なのに「なぜだろう」と首を傾げたりしないのだろうか。また、被差別者という意味では当事者とも言えるNHK所属の女性スタッフたちは、どうして率先して番組のいびつを怒る声を上げないのか、といぶかったりするのは僕だけだろうか・・。

女性差別を無くすことの重大な意義の一つは、「男が変わること」である。男が変わることで不公平が是正され、偏見がなくなり、より進化した社会が出現する。世界は今その途中にある。

だが完全な男女平等はまだずっと先の理想郷である。「“反”男尊女卑」運動のメッカとも呼べる英BBCにおいてさえ、つい先日、有能・有名な女性キャスターなどが「男よりも低賃金の給与差別を受けていた」事実が暴露されるなど、女性差別の根は深く広い。

ましてや「日本においてや」という状況の日本の、メディアのロールモデルともなるべきNHKは、やはりもう少しそうした問題に敏感であってほしい、とどこまでもNHKファンの僕は思わずにはいられないのである。


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