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世界最大の「困った男」トランプ米大統領が、エルサレムをイスラエルの首都と認める、と宣言して世界が震撼している。それはトランプ大統領によるアラブ・イスラムの国々への新たなる挑発であり侮辱である。憤怒に駆られたイスラム過激派が、さらなるテロを重ねる可能性も高い。狂気の沙汰と呼ぶ関連・当事者も少なくない危険な動きだ。

そのことについてはまた言及することにして、ここではもう一つの「トランプ問題」、とも言える北朝鮮の核ミサイル開発について書いておくことにした。

せめぎあい

2017年11月29日、北朝鮮がまたミサイルを発射。「大型の核弾頭を搭載して
1万3000キロを飛びアメリカ全土に到達できるICBMか」というニュースが世界を駆け巡った。ここイタリアのメディアも繰り返し大きく伝えて、事態の深刻を強調している。

アメリカのトランプ大統領は、中国の習近平主席が核兵器開発を止めさせようとして北朝鮮に派遣していた特使は、「チビのロケットマン(金正恩朝鮮労働党委員長)に対しては何の効果もなかった」と、例によって金正恩委員長を見下しきった言葉を発することで、彼自身も馬鹿にしている相手と同レベルの男であることを暴露しつつ、北朝鮮へのさらなる圧力強化を明言した。

こうした状況から見えてくるのは、金正恩委員長がやりたいことをこれまで通りにやりまくり、習近平中国国家主席が、北朝鮮にそっぽを向かれると同時にアメリカには怒られて二重に狼狽し、トランプ大統領が例によって、支持者の集会などで狂犬よろしく吼えている、という構図である。

似た者同士

金正恩朝鮮労働党委員長は2011年12月、27歳の若さで北朝鮮のほぼ全権力を握った。以後、人民への圧政と政権幹部の粛清を繰り返しながら、核ミサイル開発を推進。日米韓をはじめとする世界の多くの国々の糾弾、また懇願を尻目に核実験や弾道ミサイル発射実験を繰り返してきた。

2017年初頭に就任したトランプ米大統領は、経済制裁強化をはじめとする北朝鮮への強硬路線を加速。挑発をやめない金正恩委員長を嘲笑罵倒するツイートを発信して、彼もまた北朝鮮を扇動。金委員長は米大統領を「老いぼれ」などと口汚くののしり返しながら、ミサイル核兵器の開発に血眼になってきた。

トランプ大統領は、金委員長をあるときは威嚇し、痛罵し、またあるときは「友人になれるかもしれない」などと秋波も送る、一見支離滅裂な言動を続けると同時に空母打撃群を日本海に展開。次には空母3隻と海上自衛隊の演習を実施するなど北朝鮮を強く牽制し、返す刀で中国の習近平主席に圧力とも協調・友誼の発露とも取れる働きかけも怠らなかった。

最大の挑発

緊張が高まる中、トランプ大統領が11月にアジアを歴訪。先ずは日本で彼の腰巾着、安倍晋三首相と「トランプ主義」礼賛のセレモニーを反復した後、中国に渡った。そこで北朝鮮への石油輸出全面禁止を含む強硬措置を習近平主席に迫り、「中国を利用」して北朝鮮の暴走を食い止める最終アクションのシナリオが描かれるのではないか、との想望が生まれた。

期待を膨らませるように北朝鮮はミサイル発射などの挑発行為をしばらく「自粛」。中国はあたかもトランプ大統領の意を受けたかの如く11月17日、北朝鮮に特使を送って金委員長の説得にあたった。ついに北朝鮮が軟化して対話のテーブルに着く時が来た、とさえ見られた。ところが特使派遣から10日も経たない11月29日、北朝鮮は満を持したように強力な核弾頭搭載可能のミサイルを発射したのである。

トランプ大統領は北朝鮮と中国を同時に誹謗する前述の、「中国が送った特使とチビのロケットマン」がテーマのツイートを発信して、いつものようにその軽さと人徳のなさと、思い上がりと無教養によって世界を楽しませ、呆れさせ、且つため息をつかせたのだった。

中国の腹の中

習近平主席が北朝鮮に送った特使は、ピョンヤンで金正恩委員長側近の政権幹部とは会ったものの、金正恩委員長本人とは面談できなかったとされる。だがその出来事はおそらく、中国と北朝鮮が仕組んだフェイクニュースではないか、と僕は思う。実際には特使と金正恩委員長は会っていて、米国を欺くために面会不成立を演出しているのではないか、と疑うのだ。

習近平主席は、トランプ大統領に北朝鮮へ向けてのドラスティックな手法を約束しつつ、北朝鮮との不仲を装っているようにも見える。そうすることで、「俺は懸命に圧力をかけているが金が言うことをきかない」とアメリカに示唆しているのである。その裏取引があるから北朝鮮の独裁者は、「安心して」再びミサイル発射を断行したのではないか。

アメリカは軍事介入に踏ん切りがつけられず、中国は中国でアメリカと協調する振りで北朝鮮とも裏取引を継続しながら時間稼ぎをする。事態は硬直したまま北朝鮮だけが核ミサイル開発政策を堅持。やがてアメリカも北朝鮮を核保有国として「しぶしぶ」認める、というこの先の展開が見えてくるようだ。

それはつまり中国が、北朝鮮の核武装を既に容認していることを意味する。朝鮮半島の非核化は中国の国益、というのは中国にとっては今やおそらく過去のコンセプトなのだ。米政権内にさえ北朝鮮を核保有国と認めて金委員長と交渉を始めるべき、という意見が以前から根強くある。中国は先行してその施策を実行しているのではないかと思う。

勝利者はもう決まったも同然?

金正恩委員長は既にトランプ大統領に勝っている、という見方もできる。それというのもトランプ大統領がまともな指導者なら、彼は北朝鮮への武力行使はできない、と見られるからだ。戦争を起こせば、北朝鮮は言うまでもなく韓国にも多大な犠牲者が出ることが予想され、日本も攻撃される可能性がある。トランプ大統領が正気ならば、そんな大きなリスクを犯すことはできない、と考えるのが普通だ。

北朝鮮と並ぶ当事者の韓国は、高い確率で自国民が犠牲になる戦争に強く反対している。また中国とロシアも彼らの利害故にアメリカの軍事解決に異を唱えている。さらにアメリカ国民の多くにも厭戦気分が強い。トランプ大統領はその意味ではいわば四面楚歌の状態だ。

従って、繰り返しになるが、事態は手詰まりのまま時間が過ぎて結局、 北朝鮮は近い将来、核保有国としての現状を容認されて、独裁者・金正恩が命脈を保つのではないか。つまり金正恩委員長は彼の目的を達成し、勝利者となるのだ。それを阻止できるのはおそらく、トランプ大統領が「正気を失って」北朝鮮への攻撃を実行することだけだ。

アメリカが軍事作戦を決行すれば、ほぼ確実に若い独裁者を殺害できるに違いない。だが前述したように、朝鮮半島と、おそらく日本にも多大な犠牲者と被害をもたらすだろうから、トランプ大統領は決して真の「勝利者」にはなれない。同大統領は地域の怒りと恨みを買うのみならず、歴史に大悪名を残すことが確実だ。

そればかりではない。戦争は中国とロシアを巻きこんで拡大し、安保法に縛られた日本も参戦。そうなれば第三次世界大戦とも呼べる惨事に見舞われないとも限らない。そして責任のほぼ全ては、トランプ大統領に科される可能性が高い。進むも地獄、引くのも地獄、というのがトランプ大統領が今現在置かれている状況だ。

金正恩の野望

周知のように北朝鮮の首領の目的は、核抑止力を確保して彼の独裁政権を存続させること、の一言につきる。金委員長は20011年に始まった「アラブの春」で、中東やアフリカの独裁者が次々に殺害されたり政権を追われたりしたことをつぶさに見てきた。リビアのカダフィ大佐、エジプトのムバラク大統領などの無残な姿は、世界中に生中継されて衝撃を呼んだ。

それ以前には、イラクのサダム・フセインと息子らの凄惨な最後も彼は目の当たりにした。さらに歴史をさかのぼれば、ヒトラーまで言及しなくてもルーマニアのチャウシェスク、フィリピンのマルコスなど、無敵にも見えた独裁者らの悲惨な結末は彼の記憶にも新しいことだろう。

独裁者・金正恩にとっては、前人と同じ轍を踏まないための方策は核兵器を保有して、アメリカ以下の世界の国々に彼の政権の安泰を保障してもらうことしかない。彼はカダフィもサダム・フセインも誰もが、核抑止力を持たない為に米国を中心とする有志連合によって地獄に送られた、と固く信じているとされる。

金委員長は、座して待てば必ず政権崩壊が起こり終末がやってくる、と正確に見通している。それならば「アメリカに攻撃され殺害される」リスクを犯してでも核武装に走るしかない。いわばヤケクソの賭けに出たのが彼の挑発の意味である。だが彼の勝利が確定すればそれはつまり、「チビのロケットマン」が実は狂気の天才だった、と人々が信じるかもしれない稀有な事態となるだろう。


イラスト by Kenjiandrea nakasone