
世界最悪の「KY男」トランプ米大統領が、2017年12月6日、エルサレムをイスラエルの首都と認める、と宣言して世界が震撼している。
それはトランプ大統領によるアラブ・イスラムの国々への新たなる挑発であり侮辱である。各地で抗議デモが行われ、けが人や死者が出る事態となっている。
憤怒に駆られたイスラム過激派が、さらなるテロを重ねる可能性も高い。狂気の沙汰と呼ぶ関連・当事者も少なくない危険な動きだ。
エルサレムは世界の3大唯一神教であるキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の聖地。その所属を巡って宗派間のいがみ合いが絶えない。米国は歴史的にその対立を回避する方向で政策努力を重ねてきた。
エルサレムは実質イスラエルによって統治されている。国会や最高裁判所をはじめ、同国の大半の政府機関が置かれて、首都のテルアビブよりも「より首都として機能」している。
歴史的に同市は西と東に分かれ、前者がユダヤ人のイスラエル、後者がアラブ人のヨルダンに統治されていた。しかし1967年の第三次中東戦争(6日戦争)でイスラエルが東も占領した。
以後、イスラエルは国際世論に押されてテルアビブを首都としているが、エルサレムが彼らの真の首都だと主張。一方アラブ・パレスチナも将来建国する彼らの国の首都、と位置づけて対立。
対立はユダヤのイスラエルと、パレスチナを支持するアラブの大半の国々のいがみあいとなってくすぶり続けている。欧米、特にアメリカは対立の仲介役として立ち回ってきた。
アメリカはエルサレムを首都と主張するイスラエルの言い分を認めるものの、大使館をそこに設置するなどの実効行為は避けて、玉虫色の現状維持政策を続けてきたのである。
トランプ大統領は、アラブにも気を使ったその歴史的なアメリカのポリーシを覆して、一方的にイスラエルの肩を持つ今回の「エルサレムはイスラエルの首都」宣言をした。
驚きの声明にアラブ世界は言うまでもなく、欧州列強をはじめとする世界の国々が反発、非難している。トランプ大統領を支持しているのは、今のところチェコとフィリピン。
さらにトランプ大統領の政策なら何でも支持する安倍阿諛政権の日本のみである。日本政府は、トランプ大統領の宣言に異を唱えないことで、彼の主張を支持しているのだ。
トランプ大統領が約20年に及ぶアメリカの「エルサレムへの大使館移動延期措置」と、約70年に及ぶ同国の中東政策を突然反故にしたのはなぜか。
大統領選での公約を果たして、選挙で莫大な献金をしたイスラエルと米国のユダヤ人富裕層やキリスト教福音主義者を喜ばせ、さらに右派の支持層をしっかりと繋ぎ留めるため、という説が有力である。
支持率が低空飛行を続け、政権の揺らぎが静まるどころか、しばしば激震へと悪化するトランプ政権は、コアな右派支持層、中でも極右の排外民族主義者らの強い支持が命綱だ。彼らの支援獲得のためなら何でもやる、というのが青息吐息の同大統領の覚悟なのだろう。
またトランプ大統領は、歴代の米大統領と自分は「違う」と知らしめたい欲求が強い、とも言われている。事実彼は、「エルサレム宣言」の際に次のように力説した。
「大使館移設を20年以上見送ってもイスラエルとパレスチナの恒久的な和平合意には至らなかった。今後もさらに同じやり方を繰り返して、違う結果あるいはより良い結果が出ると考えるのはバカだ」と。
それは一見すると正論である。だが自らの都合に合わせて構築された正論は往々にして破綻する。トランプ大統領の断定の背景には前述の「彼の都合」がある。そればかりではない。
トランプ大統領の上級顧問で娘婿のクシュナー氏の存在も気にかかる。クシュナー氏は敬虔なユダヤ教徒。大統領の娘で妻のイヴァンカさんも彼に合わせてユダヤ教に改宗した。
そうした家庭環境を持つトランプ大統領が、元々あったユダヤ人民への親近感をさらに強めて、「家族思い」の余り圧倒的にイスラエル寄りの政治決断をした、と考えるのはうがち過ぎだろうか。
たとえ「家族絡みの思考」がなかったとしても、トランプ大統領の正論は心もとない。それというのも「エルサレム首都移転」問題に対するこれまでの米国のスタンスは、ベストではないが「考えられる限りのベター」だった、と思えるからだ。
イスラエルとアラブ・パレスチナが、エルサレムの所属と在り方を巡って対立し、双方が一歩も譲らない現状では、第三者のアメリカは中立の立場にいたほうが良い。
トランプ大統領のみならず、アメリカの心は明らかにイスラエル寄りである。だがそれを抑えて、まがりなりにもアラブ・パレスチナにも気を遣ってきたのが米歴代政権の政策だ。
本音と建前を使い分けるのは偽善である。だが世界政治の、特に紛争地では、本音と建前を使い分ける偽善が必要なケースが多々ある。その一つがアメリカのエルサレム紛争対策だった。
それは失敗などではではなく、現在考えられる限りのベターな政策だった。そしてベストが存在しない限り、「ベターがベスト」なのである。
アメリカは台湾問題でも同様の政策を実践した。1979年、アメリカは中華人民共和国を事実上承認し、「北京を首都と認定」して、正式な外交相手を台湾から中国に移した。
玉虫色の解決策によって、中国と台湾の間には緊張は存在するものの平和が保たれている。エルサレムを巡る米国の政策も同じだったのだ。
イスラエルとアラブ・パレスチナの間には強い緊張関係があり戦闘でさえも勃発する。だが全面戦争には至らず、和平交渉も遅々とした動きながら絶えず試みられてきた。
トランプ大統領は、まがりなりにも「実際に機能していた」方策をふいに遺棄して、暴走を始めたのである。暴走と暴挙が就任からほぼ1年に渡るトランプ大統領の実績だ。
トランプ大統領は、エルサレムを巡る複雑な経緯や長い歴史を顧みない身勝手な宣布をしておきながら、いかにも彼らしく“アメリカはそれでも中東和平の仲介役を務める”とも発言した。
無神経なのか大胆なのか、間もなく状況は明らかになるだろう。その前に彼が辞職するか、または弾劾によって放逐される可能性も依然として高い、と思う。それは決して自分のポジショントークではない、と考えるのは僕のポジショントークだろうか?