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スペインからの分離独立を巡って激しく揺れるカタルーニャ州で議会選挙が実施され、分離独立派が135席のうち70議席を獲得して多数を占めた。ラホイ首相率いる国民党は大敗。改選前の11議席から8議席も失って3議席となった。

しかし、国民党と同じくカタルーニャ州の独立に反対する市民党は、ブリュッセルに避難しているプチデモン前州首相率いる「カタルーニャのための連合(JxCat)」さえも抑えて、単独政党としては最多の37議席を確保した。

選挙への住民の関心は高く、投票率は83%を超えた。過半数の議席を得た独立派の勝利は動かないものの、反独立派との勢力は拮抗した。それは今後の独立運動の行方が不透明であることを思わせ、スペイン中央政府とカタルーニャ州の対立が深まる可能性も示唆している。

今回の州選挙は、10月1日に行われたカタルーニャ州の独立の是非を問う住民投票が原因で実施された。住民投票では有権者の43%が投票。賛成票が90%以上を占めた。

これを受けて10月27日、カタルーニャ州議会が独立の動議を賛成多数で可決。共和国としてスペインからの独立を宣言した。

スペイン政府は一連の動きが憲法違反だとしてただちにカタルーニャの自治権を剥奪。プチデモン州首相をはじめとする州幹部を解任し州議会も解散させた。そして12月21日の州議会選挙となったのである。

独立宣言から3日後にスペインを脱出して、EU本部のあるブリュッセルに留まっているプチデモン前州首相は、選挙結果を受けて「スペイン政府は敗れた。ラホイ首相は方針を転換しなければならない。否ならわれわれが国を変える。修正、修復、また回復の時がきた」と宣言した。

これに対してラホイ首相は「プチデモン氏ではなく選挙の勝者と話し合う」と応酬し、国と州の対話の困難が再び浮き彫りになった。

勝利した独立派は、国外にいるプチデモン氏や、スペイン当局に拘束されている独立派ナンバー2の ジュンケラス前州副知事に代わる誰かを、州首相に立てて政権を樹立しなければならない。が、先行きは不透明である。

プチデモン前州首相の国外脱出後、一時期下火になった独立運動は、選挙の勝利で息を吹き返して活発化することが予想され、今後の成り行きはラホイ首相の中央政府次第、ともいえる状況が出現した。そこにEUがからむかどうかが焦点になるだろう。

EUは2009年の欧州ソブリン危機、2015年がピークの難民問題、2016年のBrexit(英国のEU]離脱)決定など、参加国間の結束が乱れ屋台骨が揺らぐ難局に直面している。そのためにEUは、カタルーニャ州の独立問題をスペインの内政問題と端から決め付けて関わることを避けてきた

自らが分断・崩壊の危険にさらされているEUは、構成国のうちの大国の一つであるスペインが、カタルーニャ州の独立で弱体化し、それはEUそのもののさらなる衰勢にも加担しかねないと恐れた。EU内のほとんどの国が、程度の差こそあれ「それぞれのカタルーニャ州」を抱えている現実も不安なのである。

これまで民主主義の原則と非暴力を守ってきたのは、カタルーニャ州とプチデモン前州首相をはじめとする独立派の人々である。EUはこれを庇護しなければならない。だがEUは同時に、スペインの安定と秩序と統一を守ろうとする同国中央政府の立場もまた支持しなければならない。EUは後者を選んだ。

しかし、州議会選挙で独立派に敗れたラホイ政権が、選挙結果を無視してカタルーニャ州の自治権を剥奪し続け、再び強権的な姿勢で同州に対するならば、EUはこれに介入するべきだ。EUは曲りなりにも民主主義と自由と平和主義を原理原則に掲げているのだから。

だがEUの対応がただちに変わるとは思えない。EUの本音は結局、強者の立場からの欧州の統治だ。だがそれは間違っている。カタルーニャ州問題が提示しているのは、少数派の立場を尊重し擁護することでそれらの勢力をEU信奉者として留め置き、それによって連合の結束を固めて行く手法こそが最善の道、ということである。

EUがその方向に舵を切る可能性は今のところは低い。スペインの行く末も不透明である。だが、一点だけ確実なことがある。それはカタルーニャ問題への対応を誤ったラホイ首相の求心力が、急速に弱まった現実だ。彼の退陣の可能性を含むスペイン国内の政局の変化が、あるいは事態打開の大きなきっかけとなっていくのかもしれない。