ハート真っ直ぐ


11月のトランプ大統領の訪日に合わせるように日本を訪れたスティーブン・バノン元大統領首席戦略官が12月半ば、再び日本を訪問して前回にも勝るとも劣らない勢いでトランプさんの太鼓もちを務め、NHKを含む世界の大手メディアをフェイクと罵倒するお得意の「フェイク放言」を繰り返した。

前回のバノンさんの訪日も安倍首相に好意的な勢力の影がちらつく「事件」だったが、今回も同じ雰囲気がぷんぷん漂っている。米保守系政治イベント、CPAC(シーパック)の日本版「J-CPAC」で講演をするためだったという。またアメリカの猿真似かよ、とため息が出るばかりだ。

アメリカは日本にとって最重要な友人だ。同盟関係を維持するのみならず、さらなる友誼を模索し続けたほうが国益に適うことは論を待たない。だが同時に、日本はアメリカとの「対等の付き合い」も本気で追求しなければならない時期にきている。

現在の日米関係は、安倍政権の阿諛一辺倒のやり方に代表されるように、あくまでもアメリカが主人で日本は奴隷にも等しい無残な間柄に過ぎない。それを解消しなければ、日米の真の友誼もあり得ないことを、特に保守派を装う極右排外主義者の人々は知るべきだ。

たとえばバノンさんを日本に招待するような人々は、同氏が白人至上主義者であることをしっかりと認識しなければならない。白人至上主義を密かにあるいは大っぴらに標榜する彼の中には、黄色人種である日本人への蔑視も黒くわだかまっている。彼と同種の人間であるトランプ大統領のように

それは違う、と考える日本人は、かつてアパルトヘイト(人種隔離政策)が敷かれていた南アフリカで、白人種に「準白人」と呼ばれて狂喜し、あたかも有色人種ではないかの如く振舞った同胞を思い出せばいい。彼らは日本の恥ずべき過去の一つだ。日本人は白人ではない。白人ではない日本人が「白人至上主義者」の正体を見て見ぬ振りで彼らに阿(おもね)る姿は見苦しい。

日本はアメリカと連携すると同時に、中国や北朝鮮などの反動政権にも十分に留意しなければならないのは自明の理である。だが平行して、中朝との友好協力関係を築き上げる方策もまた探求しなければならない。それは自らが白人種ではなく、黄色人種であることをしっかりと認識しそれを誇る、「当り前と言うのさえばかばかしいほど当たり前の」態度がまずあってこそ成就できる目標だ。

日本はアメリカの建前、すなわち中国・北朝鮮への敵対的アプローチのみを見て、それに合わせるように2国への圧力や対抗戦略ばかりを追い求めてはならない。日本独自の友誼追求の外交努力をするべきだ。いかに敵対していようとも彼らはわれわれ同じ「非白人種」であることも断じて忘れてはならない。

強硬な米トランプ主義の本音は、長期的には中国と北朝鮮2国との友好協力の模索だ。安倍政権は必死に中朝、特に北朝鮮への強硬姿勢のみにこだわっているが、そろそろその瑕疵に気づくべきだ。戦争や紛争による巨大な被害を本気で避けようと思うならば、「友好親善」の方が武力よりもはるかに効果的な抑止力になり得る、という真実に今いちど目を向けるべきなのである。

バノンさんは日本滞在中にNHKがインタビューした際、北朝鮮問題は行き詰っているのではないか、という記者の指摘に猛反発。「ほら、それこそが“反対派”の言い分。NHKはまさに“反対派”だ。NHKは日本のニューヨーク・タイムズでありCNNだ」などとまくしたてた。

批判的な相手を即座に(自分とボスのトランプ大統領が大嫌いな)CNNと同じ反対派であると断定し否定して、批判をまったく受け付けようとしない態度は、多文化主義や移民に反対し白人至上主義や排外主義を標榜する、バノン氏らオルタナ右翼に特徴的な態度である。

記者が「私たちはNHKです。CNNではありません。世間には北朝鮮問題は行き詰っている、と考える人も、あなたのように進行中とみなす人も、また成功していると見る人さえいます。私たちはあなたやトランプ大統領を批判もしませんし、賞賛もしません。不偏不党を追求し、ありのままの事実を客観的に伝える努力をしています」とはったりでもいいから言い返さなかったのは残念だ。

バノン氏のインタビューを聞いたり見たりするのは、僕にとってはそれが初めてのことではない。彼はことし8月に大統領首席戦略官を解任されたが、そのおよそ一ヵ月後、米CBS放送の「60ミニツ」に出演して司会者のチャーリー・ローズに痛烈に批判されたりもしている。

ローズさんはバノンさんにこう言った。「あなたは(トランプ大統領も) 白人至上主義者やネオ・ナチ、またそれに近い思想や政治信条を持つ人々を、端から徹底的に否定するべきだった。なぜならアメリカ人が第2次世界大戦で戦ったのがまさにそうした人々だったからだ。あなたは(トランプ大統領も)そうしないで、むしろ彼らに親和的であるようにさえ見える」と。

そこで事の重大に気づいたバノンさんはあわてて、「トランプ大統領(と私)はネオ・ナチや南部民族主義者、あるいはKKK(クー・クラクス・クラン=白人至上主義テロ集団)などを認めていません。彼らは最悪の存在だ。アメリカには政治的にも社会的にも彼らの居場所はない」と取り敢えず否定した。

バノン氏は常に早口の攻撃的声音でまくしたてる。声を荒げることで反対者や気に食わない政敵を抑え込めるとでも思っているのだろう。NHKやCBSのインタビューに答えるバノン氏も同様だった。自らをストリート・ファイターと規定し、絶えずけんか腰で相手に対するのが彼の持ち味だ。それは見ていて決して愉快なものではない。

NHKは彼の日本訪問を無視することもできたはずだが、あえてインタビューをすることで彼を得意にし、世間の注目も集めて氏の存在感を高めてしまうという負の効果も呼び込んでしまった。だが同時にインタビューをすることによって、バノン氏がいかなる人物であるかも知らしめたのだから、一利一害である。

NHKは、しかし、ビデオ・インタビューをWEBニュースで活字にする際には大きな間違いを犯した。バノン氏の受け答えを「です・ます調」の敬体で表記したことである。敬体は「だ・である調」の常体と比べて、発言(言葉)の印象を和らげる効果がある。殴るような調子で話されたバノン氏の英語は、日本語の敬体に置き換えられて、丁寧且つ教養にあふれた人物のそれでもあるかのように洗練されてしまっていた。

それがバノン氏を擁護するために意図的になされたものとは思わないが、日本語ならば明らかに常体のしかも押しの強いアグレッシブな内容の彼の発言が、なぜ柔和で静かな物言いに聞こえる敬体に変えられたかは不可解である。そのことも含め、バノン氏のイメージ向上にも資したインタビューそのものが、トランプ主義を称揚する安倍首相の思いや、その周りの強権勢力へのNHKの「忖度」ではなかったことを祈るばかりである。