メルケル首相率いる同盟(キリスト教民主・社会同盟)との連立を模索するドイツ社会民主党は2018年1月21日、臨時党大会を開き、同盟との連立に向けて正式交渉に入る方針を決めた。
臨時党大会には各州を統率する代議員約640人が参加し、過半数 が同盟との連立を目指した正式協議を承認した。しかし同党内には同盟との提携には懐疑的な意見も多く、見通しは不透明だ。
特に変革を求める若い党員の多くは、メルケル首相主導の連立政権への再びの参加に強く反発していて、シュルツ党首が豹変したのは内外からの圧力に屈したからだ、と主張。党執行部への怒りも募らせている。
メルケル政権に参加してきた社会民主党は、昨年9月の総選挙で歴史的な大敗を喫した。強いリーダーシップを発揮するメルケル首相の陰に隠れて、党の独自色を出せずにいたことが支持者離れを起こした、とする見方が強い。
同党のシュルツ党首はこのことを受けて、総選挙の直後に「同盟との連立には参加しない」と言明。メルケル首相は少数政党との連立政権を目指したが不首尾に終わった。そうやってドイツの政治不安が始まった。
EU(欧州連合)最大の経済大国であり政治的影響も強いドイツの政治混乱は、他のEU構成国を動揺させ、ドイツ第2党である社会民主党に対して、再び連立に参加し政権を発足させるように、との圧力が高まった。
もっとも注目されたのは同党所属のシュタインマイヤー独大統領が、EU諸国からの要請を受けて、シュルツ党首に連立政権に参加して政治空白を解消するように強く迫ったことだった。
社会民主党の執行部は、内外からの圧力に屈服する形で連立へ向けて動き出した。そして前述の代議員による臨時党大会を乗り切った。最終的には全党員による議決を経なければならないものの、連立政権樹立への展望は大きく開けた。
この状況を受けて、日本人を含む一部の政治評論家らは、大連立の可能性を言わば「敗者の足掻き」と位置付け、悦に入ったりする。だがそれらの評者は奇をてらったり、批判のための批判を繰り返すだけで建設的な意見や提言をほとんどしない。いや、できないのだろう。
メルケル首相率いる同盟と社会民主党は、先の総選挙で確かに議席を減らした。特に社会民主党の地盤沈下は歴史的なものだった。だが同盟と社会民主党は依然としてドイツの第1、第2党であることに変わりはない。彼らは勝者であって敗者ではないのである。
また今のドイツ政界には、同盟と社会民主党による大連立に勝る、と考えられる組み合わせも存在しない。無責任な論者の主張は、2党の連立よりも極右の「ドイツのための選択肢」による何らかの前進、ひいては政権樹立が望ましい、と言うにも等しい暴論に過ぎない。
今日現在のところ、ドイツにとっての最良の選択は同盟と社会民主党の大連立による政権樹立である。それは言うまでもなく目新しくはなく、革命でもなく、予測不可能な面白い政権でもない。むしろ見え透いて陳腐で退屈な政府である。
同時にそれはドイツのみならずEU(欧州連合)にも安定と力をもたらす政権である。
強いEUはトランプ米反動政権の暴走に歯止めをかけ、変形共産主義の独裁国家ロシアと中国ににらみをきかせ、同時にEU内に巣食い膨張しようとしている排外差別主義者の極右やポピュリストや扇動家などにも毅然として立ち向かう。
いま求められているのは、ドイツ社会民主党が党員全員の投票によってドイツの政治の安定を保証し、安倍政権の一部を含む世界のトランプ主義者らの跋扈を抑え込むことである。それを支え鼓舞するのが、責任ある政治家や識者や批評者や報道人に課された命題だ。
無責任な言説をまき散らして読者を惑わす炎上商人まがいの論者や識者などいらない。意図的に、さらに悪い場合には無自覚のままフェイク言論を展開して、排外差別が核のトランプ主義に加担する一切の勢力もまた不要なのである。