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左からレンツィ、ベルルスコーニ、サルヴィーニ、ディマイオの各氏



世論調査

イタリア総選挙の投票日まであと5日になった。投票前15日間は世論調査の公表が禁止されている。マスコミの世論調査(公表)が投票行動に影響を与える、という説に基づく処置だ。

その真偽については諸説があり、世界中の国々が世論調査の結果発表を独自に規制したり、あるいは規制しなかったりしている。イタリアの規制は世界でも強い方である。

各党支持率

今回選挙の最後の世論調査発表によると、各党また会派の支持率はおよそ次の通り。

「フォルツァ・イタリア」党のベルルスコーニ元首相が主導する中道右派連合
36~38%。反体制ポピュリズム政党の「五つ星運動」27~29%。政権与党・民主党中心の中道左派連合26~28%。

ベルルスコーニ&右派連合

「フォルツァ・イタリア」党のベルルスコーニ元首相は81歳。4期9年間も首相を務めたが2011年に失脚。2013年には脱税で有罪判決を受けた。そのため公職に就くことはできないが、キングメーカーとして影響力を持つことが必至の情勢。

多くの醜聞にまみれながらも人気を保つ元首相の政治家としての強みは、寝業師的な「根回し」の能力。彼は常に連立相手を説得し手玉に取って政権と政治力を維持してきた。

今回は北部同盟から改名した極右政党の「同盟」と、同じく極右の「イタリアの同胞」と提携して選挙戦を進めている。そして過半数には届かないものの、最大勢力になると見られている。

しかし、ベルルスコーニ元首相と同盟のサルヴィーニ党首の間には前者がEU支持、後者が強い反EUなど政策上の齟齬があり、一枚岩ではない。

五つ星運動

コメディアンのベッペ・グリッロ氏が結成した「五つ星運動」は、首相候補に31歳のルイジ・ディマイオ氏を立てて、単独政党としては最も強い支持率を保っている。

既存の政党や政治家を厳しく断罪し、支持者がネット投票で党の意思決定に直接参加できる仕組みを作ってのし上がった「五つ星運動」は、しかしながら、他党との連立を強く拒んでいる。

ディマイオ氏は「反EU」の旗印を鮮明にしないなど、「普通の政党」への脱皮を図る姿勢も見せているが、他党と提携をしない限り今のところは政権奪取はもちろん、政権参加も不可能と見られている。

凋落民主党の奥の手?


政権与党の民主党は、2016年の憲法改正案を巡る国民投票で大敗しレンツィ首相が辞任。彼は党首として居座ったものの、党の分裂を阻止することができずに支持率が下落。その傾向には歯止めがかかっていない。

左派連合としてまとまっても、単独政党の「五つ星運動」の支持率と同じか、わずかに及ばず、3大勢力の中では最低人気。選挙後には中道右派との連立を模索するという見方もある。

その可能性は皆無ではない。民主党は過去にはベルルスコーニ元首相と提携したこともある。また元首相と右派連合内で勢力が拮抗する同盟のサルヴィーニ氏との間には、前述のように政策を巡る対立もある。

民主党と元首相の「フォルツァ・イタリア」党が連立を組んで、サルヴィーニ氏と同盟がはじき出される、というシナリオは少しも荒唐無稽ではない。いや、動乱が盛んなイタリア政界ではむしろ当たり前、とさえ言える。

大衆迎合主義一色の各党公約

しかしながら、各党や会派の主張や公約や政策は荒唐無稽そのものである。例えば「五つ星運動」は、減税と支出拡大と共に貧困層への最低所得保障を公約に掲げる、バラマキ政策を主張。

さらに、100万台の電気自動車を導入すると同時に、イタリアを100%再生可能エネルギーでまかなう国に作り上げる、とも言う。いつ、どんな方法で、という具体的な説明は一切なく。

大衆迎合主義にまみれた「五つ星運動」に引きずられるように、ベルルスコーニ元首相の右派連合も大幅な減税、公的年金、社会福祉費引き上げなどの浪費策を盛んに公言。

さらにはユーロとは別にイタリア国内では旧通貨のリラを流通させる、とまで説く。仏大統領選で国民戦線のルペン氏が、ユーロと仏フランの併用を主張して顰蹙を買ったことも知らないようだ。

与党民主党も、ライバルに対抗するために「責任政党」の役割などすっかり忘れて、債務を10年間で30%縮小すると明言する。

さらに財政赤字のGDP比率を引き上げかねない減税と支出拡大も宣言。それはEUが求める緊縮財政に同調する自らの立場を平然と否定する、「反EU」的政策そのものだ。

国民の諦め

「嘘つきは政治家の始まり」などと言えば、何を今さら青臭いことを。。と糾弾されそうだ。政治家が往々にして嘘つきであるのは自明のことだ。

だがそれにしても、イタリアの政治家の選挙向けの公約や主張や言い訳や所感などを見ていると、嘘のカタマリと形容しても過言ではないことに気づき驚く。

イタリア国民は政治家の嘘を嘘と知りつつ納得している。あるいは納得する振りをしている。つまり政治不信がこれ以上ないほどに高まって、ずっと高止まりしているのだ。

そのために国民は政治家の公約や主張には何の感慨も覚えない、という風にさえ見える。「諦観」と「嘲笑」が政治に対する大半のイタリア国民の関わり方なのである。

子供の喧嘩

贋物の政治主張を裏付けするかのように、政党や主要政治家らによる中傷合戦も盛んだ。

例えば「五つ星運動」のディマイオ氏は、元首相の「フォルツァ・イタリア」とレンツィ前首相の民主党は本質的に腐敗している、と公言。

これに対してベルルスコーニ元首相は「ディマイオ氏はナポリサッカー場の案内人だった。彼はサッカーの試合をタダで観たいからその仕事に就いていた」と反撃。

またレンツィ前首相は「ディマイオ氏の“五つ星運動”は、たかり屋と人たらしが集まるフェイク政党に過ぎない」と青スジを立てて反論した。

イタリア的秩序

子供のののしり合いにも似た誹謗中傷合戦を続けている各政党の党首らは、しかし、選挙後には何事もなかったような顔で「政権樹立に向けた話し合い」を始めるだろう。

例えそれが終わりの見えない対立や、拮抗が拮抗を呼ぶ緊張や、行き詰まりの連続であっても、いやむしろそうであるからこそ、彼らは決して対話を止めない

なぜならイタリアの政治は常にそういう風にして成り立ってきた。イタリアの政治混乱は混乱ではない。それは混乱という名の「イタリア的な秩序」であり「政治の常態」なのである。