左からレンツィ、ベルルスコーニ、サルヴィーニ、五つ星運動リーダーのディマイオの各氏
イタリア総選挙の結果が出た。
右派連合、五つ星運動、左派連合の戦いは、ほぼ事前予測通りの順位で終わった。最終的な数字には若干の違いが出るだろうが、結果は確定した。
即ち上下院ともにベルルスコーニ元首相率いる中道右派連合が37%強でトップ。続いて反体制ポピュリズム政党の五つ星運動が32%弱、3位が政権与党・民主党主導の中道左派連合の約23.5%である。
事前予想の数字は、中道右派連合36~38%。「五つ星運動」27~29%。政権与党・民主党中心の中道左派連合26~28%。
結果は予想通りに右派連合が勝利した。しかし、よく見るとポピュリズム政党の五つ星運動が躍進、左派連合が敗退、という構図である。
また右派連合内の勢力図を見ると、ベルルスコーニ元首相率いるフォルツァ・イタリアが13%弱。「北部同盟」改め「同盟」が18%弱、となった。
つまり連合内でほぼ常にトップの支持率を誇っていたフォルツァ・イタリアと、その後塵を拝していた同盟の力関係が逆転した。右派連合は勝利したが,その主導者のベルルスコーニ元首相は敗北したのだ。
この結果から、ベルルスコーニ元首相がキングメーカーとして辣腕を振るう、と見られていた選挙後のシナリオはおそらく書き換えられた。負けた彼にはそんな力はないだろう。
イタリア中道右派の盟主を自認してきたフォルツァ・イタリアと元首相は、その座を同盟と同党のサルヴィーニ書記長に譲ることになったのである。
つまり「イタリア中道右派の指導者」がベルルスコーニ元首相からサルヴィーニ書記長に移った。これはイタリア政界の小さからぬ「革命」である。
そしてその革命によって、81歳のベルルスコーニ氏の政治的な「終わり」が本当にやって来たと考えられる。彼の復活劇は完成しなかったのだ。
右派の革命にも匹敵するのが、反体制運動から「政党」に成長した五つ星運動の急進である。単独政党としては最も高い支持率を誇ってきた五つ星運動は、今回選挙でさらに飛躍した。
彼らは他党との連携や共闘を頑なに拒否している。今回の結果を受けてその方針を変える可能性は皆無ではないが、やはり連立政権への参加を拒み、今後も単独での過半数制覇を模索するのではないか。
だが例え五つ星運動が政権入りを拒絶しても、イタリアでほぼコンスタントに国民の3分の一の支持を獲得している同党を無視することはもはや誰にもできない。五つ星運動の主張と影響力が高まることは必至だ。
今回の総選挙における真の勝者と敗者をまとめると次のようになる。
先ず勝者は同盟と五つ星運動。中でも同盟のサルヴィーニ書記長は大勝を収めたと言える。そして敗者はベルルスコーニ元首相と民主党のレンツィ前首相である。
イタリア政界の若手の旗手であるレンツィ前首相は、長老のベルルスコーニ元首相とともに凋落した。見る影もない、と言っても過言ではない。
81歳の元首相は諦めもつくだろうが、43歳のレンツィ前首相は、例えば惨敗した民主党党首の座にしがみつくなど、何かとジタバタして醜態をさらけ出すかもしれない。
ここまでが総選挙の結果を受けてのイタリアの「政局」だ。次はイタリアの政治、政策、政道の話である。
一言で言えばおそらくイタリアの政治状況は今後もあまり変わらない。極右の同盟とポピュリズム政党の五つ星運動の飛躍は、普通の国ならば大きな変化をもたらす要因となるだろう。
彼らの躍進は、Brexit(英国のEU離脱)主導勢力と米トランプ政権、また欧州内の極右及びポピュリストの台頭などにも通底する現象だから、なおさらだ。
しかしイタリアの政治の本流はかつて、欧州一の勢力を誇示した共産党を封じ込めて政権から排除し続けたように、極右やポピュリストを政権樹立の水際で抑え込んで除去するのではないか。
イタリア共和国は単独でもそうした能力を持つが、自身が所属するEUがドイツの主導でリベラルな体質を保持し続ければ、その可能性はさらに高くなると考えられる。
イタリアでは今回選挙でも過半数を握る政党や会派が誕生しなかった。従って、例によって、政権の発足がままならずに長い政治不安が続く可能性がある。
だがイタリアは、再び例によって、その危機をうまく切り抜けると思う。話し合いと対立と、さらなる話し合いによって、政権が生まれる。それがイタリアのいつものやり方だ。
例えそこに同盟や五つ星運動が絡んでも、それはイタリアの本質的な変化を意味するのではない。むしろ同盟や五つ星運動の方が「変化して」イタリア共和国に順応した、と考えるべきだ。
混乱と、軽薄と、嘘と無責任が跋扈しているように見えるイタリアの政治は、まるで帝政ローマの知恵の残滓が充満しているのでもあるかのような、「したたかな」側面を見せることがしばしばなのである。