L`ansia di berlusconi 800



3月4日のイタリア総選挙では早々と勝者と敗者が明らかになった。勝者はポピュリストの抗議政党「五つ星運動」と同じくポピュリストの極右政党「同盟」である。

敗者は政権与党の「民主党」とレンツィ同党党首。だが最大の敗者は、中道右派連合を率いた「フォルツァ・イタリア」党と同党党首のベルルスコーニ元首相である。

81歳の元首相は、醜聞と刑罰と非難にまみれていったん政治の表舞台から消えた後、昨年あたりから復活の兆しを見せ、今回選挙で勝利を収めて政局の目玉になると予想されていた

しかしフタを開けて見ると、ベルルスコーニ氏は統率する「フォルツァ・イタリア」党とともに崩落。支持率を大きく減らして中道右派連合の盟主の座も「同盟」党党首のサルヴィーニ氏に譲った。

実はベルルスコーニ氏の零落を象徴的に表すような事件が開票前に起きていた。ミラノ市内の投票所で投票をしようとした元首相の前に、トップレスの女性が飛び出して抗議をしたのだ。

女性は「ベルルスコーニよ、お前の賞味期限は切れている!」と大書きされた裸の上半身を誇示しながら、投票箱の上にバンザイをする形で仁王立ちになった。

抗議女性はフェミニスト団体「FEEMEN」のメンバーだった。ウクライナに本拠を置く「FEEMEN」は、女性差別への抗議活動の一環としてトップレスでの示威行動を頻繁に行っている。

「FEEMEN」は昨年、一連の流れの中でフランス大統領選でも物議をかもした。極右のル・ペン候補に対してもトップレスの抗議をして、世界中のメディアに取り上げられたのである。

突然の半裸女性の抗議も予想外だったが、ベルルスコーニ元首相のリアクションはもっと想定外に僕には見えた。

元首相の顔には明らかな恐怖が走った。彼は目の前の相手をほとんど見ることもなく、きびすを返して逃げるようにそこから立ち去った。

元首相は、過去に人だかりの中で、顔にオブジェを投げつけられてケガを負うなどの体験をしている。従って女性の突然の出現に思わず恐怖を覚えたのかもしれない。

同時に過去の元首相の、人を人とも思わないような言動に鑑みると、そこで即座に悪ふざけと機知に富んだ言葉を発していてもおかしくなかった。

例えば「きれいなオッパイだね」とか「オッパイなんてものは安売りしないほうがいいよ」とか「僕がオッパイ好きと誰から聞いたの?」などなどの。

いや、彼のこれまでの女性に対する数多いユルフン行動を斟酌すれば、女性のオッパイをツンツンとつついて「張りがない。もう年だね」と毒ついていても、きっと誰も驚かなかっただろう。

女性が怒って抗議しているのも、ジョークや軽妙にかこつけた元首相の、そうした胸中深くにある女性蔑視の心情に対するものであるはずなのだ。

しかし、元首相の動きは臆病な老爺のそれ以外の何ものでもなかった。1994年に還暦手前で初めて首相になった頃の、スケベとエネルギーと自信と女性軽視に満ち満ちた、権力者の面影は微塵もなかったのである。

僕は一連の映像を見たとき、2011年に彼が失脚した時や、2013年に脱税の罪で有罪判決を受けて議員資格を剥奪された時でさえ確信が持てなかった、ベルルスコーニ元首相の政治家としての真の終焉が来たのかも、と思った。

そうは言うものの、しかし、ベルルスコーニ氏は81歳と「まだ若い」ので、今後もしぶとく政界を掻き回す存在になるかもしれない、ともまた考えたりしてしまうのである。

90歳を過ぎても執拗に権力を握っていたジンバブエのムガベ前大統領や、ことし92歳で再びの権力掌握を目指すマレーシアのマハティール・モハマド元首相などを見るまでもなく、政治家の寿命は伸び続けている。

政治家に限らず、人々の寿命も伸び続けているのは周知の事実だ。今やわれわれは、「死ぬ心配」ではなく「ムダに長生きをする」リスクをこそ恐れなけばならない時代を生きている。

従って年齢を理由に、ベルルスコーニ元首相の政治力を見くびるのは少しもあたらない、という可能性も大いにあると思ったりするである。

やれやれ・・・