renzi,merlel zipras


政権が発足できないイタリアの今日の政治状況は、つい先日までのドイツのそれと瓜二つである。だが両者は違う。国力が違うからだ。

ドイツで昨年9月に行われた総選挙では、メルケル首相率いる同盟(キリスト教民主・社会同盟)が勝利したものの議席数を減らし、第2党の社会民主党も大きく議席を減らした。極右党の「ドイツのための選択肢」が両党の議席を奪って大躍進したのである。

「ドイツのための選択肢」は米国のトランプ政権やフランスの極右国民戦線、オランダの自由党、またここイタリアの同盟などと同じ、排外主義を旗印に不寛容と差別とヘイトを助長しようとする危険な集団である。

ヒトラーのナチズムにつながりかねない極右政党への危機感もあって、同盟と社会民主党は連立政権を目指した。しかし、選挙で大敗を喫した社会民主党は、メルケル首相と提携して日陰の存在になるのを恐れ、連立政権参加を拒否。

政権合意に向けた協議は紛糾し、ドイツの政治不安は長引いた。 ドイツの政情不安は直線的にEUの弱体化につながる。それを怖れる他のEU構成国や世界から早期の政権発足を促す声が高まった。

圧力に押される形で、ドイツのシュタインマイアー 大統領は自身も所属する社会民主党を説得。紆余曲折を経て3月4日、ついに社会民主党が同盟との連立政権樹立に合意した。それは偶然にもイタリア総選挙の投票日と重なっていた。

イタリアの総選挙では、ドイツとは違って「予想通り」反体制ポピュリスト政党の「五つ星運動」と反EU(欧州連合)反移民・排外主義を標榜するもう一つのポピュリスト勢力「同盟」が躍進した。

だがどちらも過半数制覇には至らず、彼ら同志が提携するか、第3勢力で前政権与党の「民主党」と連立を組むかの選択肢しかない。

主導権掌握を目指した三つ巴の闘いの中心にいるのは、単独政党としては最大の議席数を得た五つ星運動。その五つ星運動はあらゆる政党や会派と話し合う、としながらも民主党との連立政権樹立を模索したいのが本音である。

だが民主党は野党に徹して次の選挙での勝利を目指す、として連立政権への参加を拒否。政権が発足できない混乱が続いている。

それはドイツの政治混乱の構図にそっくりである。ドイツでは第一党の同盟が社会民主党との連立政権を目指すものの、後者が野党に徹するとして政権入りを拒みつづけた

またイタリアの政治混乱を収拾させようとして動いているのはマタレッラ大統領である。マタレッラ大統領は民主党の出身である。

ドイツでもシュタインマイアー 大統領が政権合意を期して動いた。同大統領は政権参加を拒んでいた社会民主党出身である。その図式もイタリアと同じだ。

マタレッラ大統領が、身内の民主党を説得して五つ星運動との政権合意を演出すれば、イタリアの政治混乱はひとまず収束するだろう。

だがそれは「いったん政権が樹立される」だけで、イタリアの政局は再び紛糾することになるだろう。五つ星運動はドイツの同盟とは全く質が違う。理想は高いが荒唐無稽な主張も多い大衆迎合勢力だ。

民主党は政権に参加することで、五つ星運動の行過ぎたポピュリズム政策に待ったをかけることができる。それはここまで政権を担ってきた民主党の、いわば国民への義務ということもできる。

また民主党はこれまでの主張を変えずに野に下り、次の選挙での勝利を模索することもできる。民主党寄りのマタレッラ大統領は、あるいは彼らの主張に理解を示すかもしれない。

そうなれば、五つ星運動が同盟と連立を組む危うい政権が誕生するおそれがある。あるいはマタレッラ大統領主導のテクノクラート(挙国一致の実務者)内閣が成立する可能性もある。

またどちらにも至らず政治不安が長引く余地も十分にある。そして全ての試みが不首尾に終われば、再選挙が待っている。

ドイツの政治混乱と違ってイタリアのそれは、長引いてもEUや世界への影響は少ない。イタリアは大国だが、世界政治の勢力図上は例えば日本同様に小国だ。ほとんど何の重要性も持たない。

どこかでより良い組み合わせによる連立政権が生まれるに越したことはないが、イタリアが国内の政治混乱を引きずってしばらく停滞しても大きな支障はない。

むしろ政治混乱が長引けば長引くほど、ポピュリストの五つ星運動や同盟の極論主義が後退して、「より普通の」政策や綱領や理念を志向する可能性が高くなる。

イタリアにおける政治的な過激勢力は、国内に多くの主義主張が存在し意地を張る分、極論を中和して他勢力を取り込もうとする傾向が強くなる。そうやって政治的バランスが保たれやすくなる。イタリア政治の最大の特徴である多様性の効能である。