
五つ星運動の若き指導者ルイジ・ディマイオ氏
政府が存在しない状態が3ヶ月目に入ったイタリアで、単独政党トップの支持率を得て政権合意協議を主導している五つ星運動のディマイオ首相候補が、選挙後はじめて連立政権の首相は自分ではなくてもいい、と発言して注目されている。彼はこれまでどの政党と連立を組んでも「首相はディマイオ自身」というスタンスを崩さなかった。
ところが今週、三度目でおそらく最後の政権合意協議が行われる直前に、同盟がベルルスコーニ元首相と手を切って連立に参加するなら、同党のサルヴィーニ党首が首相になってもよい、と譲歩したのである。同盟のサルヴィーニ党首の「首相願望」をくすぐるしたたかな提案に見える。
31歳の若さで現在イタリア最大の政党を率いているディマイオ氏には、やはり「老獪」というコンセプトを孕んだ政治指導者として大きな素質があるのではないか、思わせる動きである。
ディマイオ氏の呼びかけは、ここまで団結を維持してきた中道右派連合内に強い不協和音をもたらすかもしれない。すなわち首相職も政権もほしい同盟のサルヴィーニ党首が、五つ星運動の要求を受け入れてベルルスコーニ元首相と決別し、五つ星運動との連立政権樹立を決意することである。
連立政権を作ろう、と同盟に秋波を送りつづけた五つ星運動は、一貫してベルルスコーニ元首相との提携をやめろ、と同盟に要請してきた。イタリアの政治の浄化が最大の目標である五つ星運動は、過去20年以上にわたって政界に君臨してきた81歳の元首相を「政治腐敗の象徴」とみなして、その排斥を執拗に主張している。
一方同盟は、政権参加とサルヴィーニ党首の首相就任を希望しながらも、連合仲間の元首相を裏切らないと言い続けてきた。連合の支持がなくては同盟の立場がひどくもろいものになるからだ。それでなければ同盟はやすやすとベルルスコーニ氏と手を切っていただろう。彼らの結びつきはあくまでも政治的なものであり、そこにはたとえば人と人の結びつきに見られる誠実というコンセプトなど存在しない、と見るべきだ。
ここまでの政権合意協議はことごとく失敗してきた。首班指名権を持つマタレッラ大統領は、政党間で政権合意が形成されない以上、たとえば政治家ではない誰かを首相に指名して、挙国一致型の実務者内閣を組織させる意向とされる。その場合には幅広い政党からの支持が必要になる。それでなければ新政権は議会によってあっけなく崩壊させられるだろう。
特に五つ星運動と同盟の支持が不可欠になる。しかし、両党とも非政治家政権の樹立には強く反対しているため実現は難しい。ほとんど不可能といっても過言ではない。そうなれば次の手は再選挙である。だが短い間に2度の総選挙を実施することへの疲労感と、再選挙をしても事態が打開される保証はない、という懐疑が国中に充満している。
土壇場で五つ星運動と同盟が政権合意に達すれば、少なくともイタリア政治の負の遺産とも評されるベルルスコーニ元首相の(真の)排除、という五つ星運動の大きな目的は達成される。その現実と、「ポピュリスト政党と反EUの極右・差別主義政党による連立政権の誕生」のどちらを取るかは難しいところだが、どちらに転ぶにしろ、それはひとえにイタリア国民が選んだものなのである。民主主義の危うさと怖さがここに秘められている、と強く感じる。