
ディマイオとサルヴィーニのこの絵が実現しそうな・・
可能性
反体制ポピュリストの五つ星運動と反EU(欧州連合)極右勢力の同盟による連立政権樹立が、ついに視界に入ってきた。
マタレッラ大統領から政権合意形成まで24時間の猶予を与える、というお墨付きをもらった両党は5月10日、長い話し合いの末に「ベルルスコーニ元首相なしでの連立政権」構想に合意した。
その実質は同盟と提携しているFI(フォルツァ・イタリア)党のベルルスコーニ元首相が、五つ星運動と同盟の連立政権を信任はしないが反対もしない、と表明したことで可能になったもの。
3月の総選挙で政党支持率トップになった五つ星運動は、最大会派の右派連合を率いる同盟に連立を持ちかける一方で、ベルルスコーニ元首相を右派連合から排除するよう執拗に求めてきた。
ところが同盟がその条件をのまなかったため、政権合意協議は暗礁に乗り上げて、もはや残された道は再選挙かという瀬戸際まできた。土壇場でどんでん返しが訪れた形だが、喧嘩好きの五つ星運動と同盟が最終合意にたどりつくまでは、しかし、逆転劇はまだ完成とは言えない。
大団円
それにしても役者全員のメンツがきれいに保たれた、見事な落としどころに行きついたものだ、というのが僕の率直な感想である。あくまでも両党がこのまま最終合意に達して連立政権が生まれる、と仮定しての話だが。
まず政権合意の障害になっていたベルルスコーニ元首相が、「負けを認めて」身を引くのではなく、連立政権を支持しない代わりに否定もしない、という玉虫色の表現で事態を容認した。
そうすることで元首相は、同盟主導の右派連合から排除されずにそこにとどまり続け、且つ同盟のサルヴィーニ党首は「元首相を裏切らない」という従来のスタンスを維持する形になった。
そして元首相の排斥を執拗に求めていた五つ星運動も、ベルルスコーニ氏と
FI党が政権に加わらないことで、彼らの目的を達成したと自他共に認める内容になったのである。
もっとさらにイタリアらしいと僕が感じるのは、ベルルスコーニ元首相が同盟との共存を続けることで、同盟を通して連立政権になんらかの影響を及ぼし続けるであろう点だ。
革命的保守?
それは五つ星運動のいう「政治腐敗の象徴」であるベルルスコーニ氏の負の側面の存続と同時に、五つ星運動や同盟と比較するとより穏健な政治信条を有する同氏とFI党が、政権の過激行動を「抑止する」という正の側面もあることを意味する。
僕は以前
イタリアの政治混乱が長引けば長引くほど、ポピュリストの五つ星運動や同盟の極論主義が後退して、「より普通の」政策や綱領や理念を志向する可能性が高くなる。
イタリアにおける政治的な過激勢力は、国内に多くの主義主張が存在し意地を張る分、極論を中和して他勢力を取り込もうとする傾向が強くなる。そうやって政治的バランスが保たれやすくなる。イタリア政治の最大の特徴である多様性の効能である
と書いた。今も同じ考えである。
ベルルコーニ元首相への好悪の感情は別にして、彼の存在が2つのポピュリスト党の「極論を中和」する役目を果たすなら、それもまた民主主義の最大の要件の一つである「妥協」、と割り切って楽観視するべきかもしれない。
幸か不幸か
それにしても、分かりやすいように敢えてレッテル貼りをすれば「左派ポピュリスト勢力」の五つ星運動と、「反EU(欧州連合)極右勢力」の同盟が連立して政権を樹立する、というのはおどろくべき変動である。
ついこの間までは悪夢とも考えられたシナリオが、もろ手をあげて賛成とはならないが「ふに落ちる」という程度にまで納得できるのはどういうことだろうか。
それはまず第一に、世界の大半が排外差別を標榜するトランプ主義に慣れてしまったことだ。多くの人々は、トランプ主義を当初はやはり「悪夢」と感じていたはずなのに、時とともに免疫ができた。
その流れの中で、正体はトランプ主義者以外のなにものでもない五つ星運動と同盟に、イタリア国民のアレルギー反応が出にくくなったのだろうと思う。
また前述のごとくポピュリズム勢力はイタリアにおいては、国内の政治勢力の総体が四分五裂されているおかげで「一方的で巨大な流れ」にはなりづらく、またその中身も変わりやすい。過激勢力が他勢力を取り込もうとして自らの極論を和らげようとするからである。
「極論主義者」的傾向が強い五つ星運動と同盟が、それぞれ親EUを標榜したり、「一方的なユーロ離脱は選択肢ではない」などと、穏健路線に舵を切ってみせたりしているのがその典型だ。
多様性が特徴のイタリアの政治地図は、そうやって極論者と保守主義者が手を握って政治的バランスが保たれることも珍しくない。
もう一つ重要なことは、イタリアが大国でありながらことグローバル政治の勢力図上は小国であるため、政治混乱が起きても世界への影響が少ない点だ。五つ星運動と同盟の連立政権が実現しても、トランプ大統領誕生時のインパクトとは程遠い。
2大ポピュリスト政党が連立を組んで政権を担う、という驚きのシナリオがそれほど「危険」に感じられなくなった背景にはそうした事情がある。それが不幸中の幸いなのか、不幸中のさらなる不幸なのかは、政権が船出してみないとわからない。
FB: masanorinakasone