2人up切り取り面白顔
        交代でサルヴィーニ首相&ディマイオ首相が実現?



5月15日現在、イタリアの2大ポピュリスト政党による連立政権が発足しそうで発足できない。反体制ポピュリストの五つ星運動と反EU(欧州連合)極右勢力の同盟による連立政権構想は、それぞれの主張の隔たりを埋める努力をしているものの最終合意には達していない。

また五つ星運動のディマイオ党首と同盟のサルヴィーニ党首は、それぞれが首相候補と銘打って選挙戦を闘った。しかし連立政権樹立を模索する中でお互いにけん制しあって、相手が首相職に就くことを認めず第三者を首班にすることで妥協したが、その人物選定でももめている。

両党首はマタレッラ大統領に再び政権合意形成までの猶予期間を要請し、大統領もこれを了承した。大統領は首相候補を含む政権構想にゴーサインを出すことができるが、同時に彼らが指名した首相候補を否定することもできる。憲法の規定である。

何度でも言うが、イタリアは大国ながら世界の政治勢力図の上では日本同様の小国だ。したがってバラマキ政策と反EU&差別主義を標榜する勢力が政権を樹立しても、世界に巨大な影響は与えない。言うまでもないことだが、イタリアは米英独仏などの政治大国とは違う。

政治力が卑小という意味だけではない。政治的多様性が大きな特徴であるイタリアでは、過激論者らが一方的に過激になることは少なく、むしろ四分五裂している政治地図のうちの他勢力を取り込もうとして、過激論を和らげる傾向が強い。

従って過激な主張が多い五つ星運動と同盟が連立政権を組んでも、例えば同種の米トランプ政権のように、あるいは仏の国民戦線や独の「ドイツのための選択肢」などが仮に政権を奪取した場合に世界が感じるであろうような、不穏な空気をもたらすことは少ない。

だがそのことは、断じてイタリアの内政の平穏を意味するものではない。大衆迎合主義に走る彼らが、選挙公約をことごとく実現しようと画策すれば、イタリア共和国は財政的に崩壊すると同時に、政治的にもEU(欧州連合)各国と対立し孤立し、やがて破滅する運命にあるといっても構わないだろう。

移民政策などの安全保障面では、五つ星運動と同盟は後者の立場に軸足を移してより厳しい規制や禁止事項を設定していくと見られる。一方で彼らが力説する経済政策は、ほとんど荒唐無稽と呼んでも過言ではないような、財政規律を無視したものが多い。いくつかの例を挙げてみる。

先ず両党ともに所得税を個人、法人ともにカットすると主張している。また社会保障費を増額し、前政権が決めた消費税値上げは延期。また「年金給付年齢を引き上げる」とした2011年の法律を「改悪」して、逆に年金給付年齢を「引き下げる」とする。

五つ星運動の最大の公約は全国一律、1月あたり780ユーロ(10万円余)のベーシックインカム制度の導入である。そのコストを彼らは年およそ2兆2千億円と見積もっているが、全国社会保障機関 (INPS )の試算ではそれよりはるかに多い最大約4兆9千億円が必要になる。

一方同盟は全国一律個人・法人ともに15%の所得税制を導入するとする。それが実現されれば年10兆円以上もの税収減となる。さらに年金支給年齢引き下げで最初の年だけで約2兆円の支出増となり、その額は年々増える見込み。また消費税引き上げの延期によって1兆6千億円以上の収入減。

それらの財源獲得見込みのない荒唐無稽なバラマキ政策を支えるために、ユーロとは別にイタリア独自の紙幣を発行する、と両党が主張している。彼らは
2017年の仏大統領選で国民戦線のルペン氏が、ユーロと仏フランの併用を持ち出したことを念頭においているようだが、その説が顰しゅく・失笑を買ったことを無視している。

EU圏内で最も借金の多いイタリア政府は、緊縮財政をEUに迫られている。国民総生産の1.3倍にもあたる国家の財政赤字を解消するどころか、さらに借金を増やそうとする連立政権はEUと激しく対立するだろう。

つい最近までユーロ離脱を主張していた五つ星運動は、EUの金融政策は変更されるべきだがイタリアはユーロ圏内に留まる、とトーンダウンしている。しかし同盟は反EUの姿勢をいささかも変えておらず、イタリアは政治環境が整い次第ユーロから離脱するべき、と主張する。

それらの反EU政策はいわば自殺行為だ。イタリア共和国はEUから離脱してもおそらく存続し続けるだろう。だがそれは孤独と貧困に満たされた、例えて言えば生きる屍のようなイタリア共和国に過ぎない。

極論を標榜しながらも両党はしかし、イタリア的な融通無碍の精神と多様性重視の哲学に押されてより穏健な路線へと舵を取っていくとは思う。それでもイタリアがEUを離脱すれば破滅は免れない。

その際彼らはお互いに、「連立の相棒がわれわれの政策に反対している」という口実を立てて、それぞれの支持者の批判をかわそうとするだろう。

そして対話と妥協の精神を理解する国民は、これをしぶしぶという態度で受け入れて我慢し、結局イタリア共和国の過激と保守のバランスは保たれることになる、と僕は希望的観測も交えて考えたりもするのである。

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