イタリアサッカーのナショナルチーム監督にロベルト・マンチーニが就任することになった。
マンチーニ監督は元セリエAサンプドリアの攻撃的ミッドフィルダー。正確かつ意表をつくパスを繰り出すのが得意で、得点能力も高かった。イタリアで言ういわゆるファンタジスタの一人である。
現役時代はいくつかのチームでプレーしたが、絶頂期を含むキャリアの大半をジェノバが本拠地のサンプドリアで過ごし、センターフォワードのヴィアリとのコンビは一世を風靡した。
イタリア代表選手でもあったが、同時代にはイタリア最高のファンタジスタ、ロベルト・バッジョが君臨していたため、彼の控えに回る不運が続いた。
引退後はSSラツィオのエリクソン監督の助監督になった。が、すぐに監督に昇格。フィオレンティーナを皮切りにラツィオ、インテル・ミラノ、マンチェスターシティなどを指揮した。
インテル・ミラノではセリエA3連覇を果たし、英国のマンチェスター・シティではチームに44年ぶりの優勝をもたらすなど、イタリア語で言ういわゆる「勝ち組監督(Vincente)」の1人であることを証明した。
だが一方で、マンチーニ監督には「スタープレーヤー」なしでは勝てない監督、という悪評もついて回る。批判者は同監督がインテル時代に、強力プレーヤー頼みの戦術に終始した過去を指摘するのである。
またマンチーニ監督は、イタリア国内リーグでは華々しい実績を残したものの、チャンピオンズリーグなどの国際試合に弱い、とも評される。これには現役時代にイタリア代表チームで実績を残せなかった歴史も影響しているかもしれない。
現在のイタリア代表チームには違いを演出できる優れたファンタジスタがいない。イタリアがW杯ロシア本大会への出場権を60年ぶりに逃したのは、指揮官のジャンピエロ・ヴェントゥーラ監督の失策、という根強い説がある。
だから彼は解任され、以後イタリアサッカー連盟(FIGC)は、勝ち組監督(Vincente )を求めて奔走してきた。そうやってマンチーニ監督が就任した。
ロベルト・マンチーニは優れた指揮官であり、勝ち組(Vincente)の監督だ。だから代表チームにポジティブな影響をもたらすであろうことは疑う余地がない。
しかしながら、いかに有能な監督であっても、優れた「選手を作り出す」ことはできない。代表チームの監督の最重要な仕事は、存在する優れた「選手を選択」することだ。選択して選手を自らの卓越した戦略に組み込む。
だが、前述したように今のイタリア代表チームには、例えばバッジョやデル・ピエロやピルロのようなスーパープレーヤーがいない。現役時代のマンチーニ監督自身に匹敵するほどのファンタジスタさえ存在しないのだ。
マンチーニ監督は、仏ニース所属フォーワードのマリオ・バロテッリを召集する計画である。バロテッリは一時期イタリアの救世主と見なされたものの失墜した、
バロテッリはファンタジスタではないが、疑いなく違いを演出できる選手だった。だが、いま僕が過去形で表現したように、2012年の欧州選手権大会をピークに転落して今は凡手になった。
マンチーニ監督はインテル時代に若いバロテッリを育てた。その後彼は活躍したが今述べたように不調に陥った。マンチーニ監督が彼を蘇らせることができれば、イタリア代表チームは確実に変わる。
だが「選手の選択」が仕事の代表チームの監督に、「選手を育てる」ことができるかどうかは未知数だ。付きっきりで監督指導できるクラブチームとは違って、代表チームの監督と選手の接触時間は短い。
その短い時間の間に、監督は選択召集した寄せ集めの選手をまとめ、戦略を練り、その戦略に選手を組み込み構成していく作業に追われる。選手を育成する時間はほとんどないのが実情だ。
そのことに加えて僕は「スタープレーヤーなしでは勝てない」とか、「国際試合に弱い」などという、マンチーニ監督のこれまでの実績への悪口も気にしないではいられない。
それでも勝ち組指揮官(Vincente )のマンチーニ監督が、バロテッリをかつての「スタープレーヤー」に仕立て上げ、「仕事の全てが国際試合」であるイタリア代表チームを、栄光に導く、と信じたい。
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