電話し合う2人600


連立協議を続けている2大反体制ポピュリスト党の五つ星運動と同盟は、首相候補以外のほとんどの政策で一応の合意を見た。

2党のディマイオおよびサルヴィーニ党首は、21日月曜日に首相候補名を含む彼らの政権構想をマタレッラ大統領に報告する。

大統領は首相候補を含む彼らの計画に納得すれば、政権樹立を首相候補に要請して五つ星と同盟の連立政権が正式に発足する。

政権の目玉は同盟主導の反移民政策。地中海を介してイタリアに流入する難民・移民を制限する目的で、国外退去処分を含む厳しい規制や禁止条項を強化する。

さらに欧州への難民・移民の入り口になっているイタリアが、EUの難民・移民ポリシー立案の主導権を握ることを強く要求する、などの声高な内容。

だが政権の最も重大な政策は、バラマキという批判も強い支出拡大案。彼らがそれを実施しようとすれば、ただちに年に13兆円から16兆円もの資金が必要である。

主なものは3つある。一律15%の所得税導入。貧困層への1ト月一律10万円余のベーシックインカム支給(最低所得保証))、年金給付年齢の「引き下げ」である。

イタリアは2009年にギリシャから始まった欧州財政危機の後遺症に苦しんでいる。その最たるものが国の借金だ。EU圏内ではGDP比率でギリシャの次に借金の多いイタリアは、緊縮財政をEUに迫られている。

新政権はEUと合意している財政緊縮策を反故にして、政府支出を大幅に増やそうとしている。国家の巨大な財政赤字を解消するどころか、さらに借金を増やそうとする連立政権はEUと激しく対立するだろう。

最悪の場合にはイタリアは、英国に続いてEUからの離脱を模索するかもしれない。もしも離脱をすればそれは、「自殺行為」と形容しても過言ではない愚かな策だ。

EU離脱後のイタリアは、例えて言えば孤独と貧困に満たされた生きる屍のような国になるだろう。反EUを掲げている連立政権は、EUとの対話を模索し決してそこからの離脱を考えるべきではない。

イタリアにポピュリスト政権が誕生することに対しては、同国内はもとよりEU各国からもまた世界のそこかしこからも、懸念の声があがっている。

英ファイナンシャルタイムズ(FT)は、提携する2政党の党首ディマオイオ氏とサルヴィーニ氏を「奇妙なカップル」と形容して、不信感と警戒心をあらわに論評している。

またフランスのリベラシオン(Libération)紙は、あまりにも主張が違う2政党の安易な握手は危険だ、としてやはり懐疑的に報道。

ドイツの保守系日刊紙ディ・ヴェルト(Die Welt )はもっとさらに悲観的である。同紙は連立政権の誕生を欧州ソブリン危機、Brexit(英のEU離脱)、難民危機などに匹敵するほどのEUの一大危険、と規定して深く憂慮している。

欧州のほとんどのメディアや政府は五つ星と同盟の連立政権に懐疑的だ。その中でイギリスの日刊紙 Daily Telegraphは、確かに頭の中身を疑いたくなるバカな政策も多いが、イタリアの新しい試みは悪いことばかりではない、と弁護する。

その一つが例えば全国一律15%の所得税である。多くの専門家は歯牙にもかけないが、そのアイデアはもしかすると、税制に革命的な変化をもたらすものであるのかもしれない、とTelegraph紙は主張する。

欧州委員会のドムブロヴスキス(Dombrovskis )副委員長は、イタリアの内政には口出ししないしするべきではない、とした上で次の政権が誰であろうと、イタリアはEUが定めた財政規律に従うべき、と強調した。

それに対して五つ星運動と同盟は「選挙の洗礼を受けていない」EUの官僚が、「選挙で選ばれた」われわれの政策に口出しをするべきではない、と激しく反発。

仏マクロン大統領は、「異質のもの同志が手を組んで政権を運営しようとするところに不安を覚える。同時にマタレッラ大統領が新政権はEUと協調して進むことになる、と明言したことに希望も覚える。それが新政権の施策の基本であることを願う」とコメントしている。

どこを見ても否定的な意見が多い。僕も基本的には同じ立場だが、一方で一度トライさせてみるのも良いことかもしれない、と考えたりするようにもなっている。誰が何を言おうが、五つ星運動と同盟という「異端者」の連立政権は発足することになったのだ。やらせてみるしかない。

一度政権が走り出せば、彼らの異様は普通になる。米国で異様なトランプ主義が普通になったように。それは阻止されるべきだったが、米国民はそうはしないでトランプ政権を発足させた。そして後戻りができないほどトランプ主義は蔓延した。

トランプ主義の功罪に対する歴史の評価はもちろんまだ出ていない。北朝鮮問題が好結果をもたらして、トランプ主義は正義へと変貌するかもしれない。だがこれまでのところ、排外差別主義を「当たり前のこと」と人々に思い込ませた一点だけを見ても、同主義は不正義だと僕は考える。

五つ星と同盟という反体制ポピュリスト勢力が走り出せば、トランプ政権と同じ結果になる可能性が高い。だが人々が後悔してももう遅いのだ。彼らを阻止したいのなら選挙によって阻止するべきだった。いまさら何を言っても遅い。一度やらせてみるしか手はないのである。

手はないのだからジタバタするのはつまらない。ただ頭ごなしに否定するのではなく、歴史の試行錯誤の一環として眺めてみるのも重要だ。試行は一度行き着くところまで行くべきだ。行き着くところが地獄なら地獄でかまわない。そこに至ってイタリア国民は真の目覚めを獲得するはずだから。

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