800天国海岸
「天国海岸」という陳腐な名称のサルデーニャ島の海の絶景


6月終わりから7月半ばまで滞在したサルデーニャ島では、海とビーチを忘れて観光や食巡りに終始した。海とビーチは昨年のクレタ島で堪能したから今回はなくても構わない、という趣旨の思いを僕は前の記事で書いた。

もっと言えば、「海とビーチはギリシャが最善」だからサルデーニャ島のそれにはあまり魅力を感じなかった、というところである。

多くの人が羨ましがるサルデーニャ島の海なのに、よりによってそこに魅力を感じなかったなんてふざけるな、と島のファンの皆さんに怒られそうだが、それが自分の正直な感想なので仕方がない。

サルデーニャ島の海やビーチは言うまでもなく素晴らしい。しかしながらギリシャの島々の、エーゲ海をはじめとする碧海やビーチは、もっとさらに素晴らしい、というのが僕の率直な心緒なのである。

地中海では西よりも東の方が気温が高くより乾燥している。そしてサルデーニャ島は地中海のうちでも西方に広がるティレニア海にあり、ギリシャの島々は東方のエーゲ海に浮かんでいる。

サルデーニャ島よりもさらに空気が乾いているギリシャの島々では、目に映るものの全てが透明感を帯びていて、その分だけ海の青とビーチの白色が際立つように見える。

ギリシャの碧海の青は、乾いた空気の上に広がる空の青につながって融合し一つになり、碧空の宇宙となる。そこには夏の間、来る日も来る日も文字通り「雲ひとつない」時間が多く過ぎる。

真っ青な空間にカモメが強風に乗って凄まじいスピードで飛翔する。それは空の青を引き裂いて走る白光のように見える。

サルデーニャ島の海上にもカモメたちは舞い、疾駆する。だが白い閃光のような軌跡を残す凄烈な飛翔は見られない。

上空に吹く風が弱いためにカモメの飛行速度が鈍く、また空にはところどころに雲が浮かんでいるため、青一色を引き裂くような白い軌跡は、雲の白に呑み込まれて鮮烈を失うのだ。

そうした光景やイメージに、それ自体は十分以上に乾燥しているものの、ギリシャに比較すると湿り気を帯びているサルデーニャ島の環境の「空気感」が加わる。

それらのかすかな違いが重なって、どこまでもギリシャを思う者の心に、サルデーニャ島の「物足りなさ」感がわき起こるのである。それはいわば贅沢な不満ではある。

そんなわけでサルデーニャ島の今回の休暇では、海三昧のバカンスではなく、観光と食巡りに重きを置く日々を過ごした。それはそれで楽しいものだった。


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