VOX党首サンティアゴ・アバスカル
スペインのアンダルシア州選挙で、極右政党の「ボックス(VOX )」が躍進し12議席を得た。
スペインの国会や州議会で極右政党が議席を確保するのは、1970年代の同国の民主化以後では初の出来事 。
そこにはカタルーニャ州の独立運動への国内右派の反感に加えて、増大する移民への人々の怒りと危機感がある。
同時にそれは、反移民、排外ヘイトを叫ぶ米トランプ主義と連動した時代の風潮であることは疑う余地がない。
スペインのアンダルシア州は、地理的にはいわば欧州(EU)のイタリアに相当する場所。地中海に面して最もアフリカに近く、そこを渡って中東・アフリカ移民が流入する。
イタリアは怒涛の勢いで押し寄せる移民への反発から、それの排斥を主張する極右政党の同盟を政権に押し上げた。
イタリアの傾向は、欧州の全ての国であからさまに、又ひそかにトレンドとなって渦巻き、牙をむいている。
アンダルシア州における極右の「VOX」の躍進を、たかが地方議会での出来事、として軽視しようとする者がいる。だがそれは間違いだ。
欧州の辺境においてさえトランプ主義がはびこりつつある、という意味ではむしろそれは重大な出来事である。
VOXの躍進はイタリアの極右政党「同盟」の台頭ともリンクし、英国のBrexit(EU離脱)勢力や独のAfD(ドイツのための選択肢)などにも繋がっている。
さらに言えば、フランスの国民連合またオランダやオーストリアの極右、加えて旧東欧諸国などで跋扈する極右政治潮流とも軌を一にしている。
一方トランプ主義興隆のトレンドに反して、ドイツのまさにトランプ主義勢力の旗手である「AfD(ドイツのための選択肢)」が、衰退傾向にあるという意外な分析もある。
反移民・排外主義者のAfDは、自由と寛容と民主主義を堅守 しようとするメルケル首相に反発する勢力によって結党された。
彼らは2015年に100万人もの移民を受け入れたメルケル首相の政策を激しく糾弾。反移民の空気が醸成されつつある中で急速に支持を伸ばしついに大幅な議席獲得を果たした。
ところがメルケル首相の権威が失墜し、ついには2021年を限りに彼女が政界引退を表明したことにより、AfDは「反メルケル党」としての存在意義を失い、急速に凋落するというのである。
その表れが緑の党の党勢復活。同党はメルケル首相所属のキリスト教民主同盟 (CDU) と同友のキリスト教社会同盟(CSU) の零落に伴い、受け皿としての役割を果たしているとされる。
それはつまり、与党支持者のうちの左派がグリーン支持に回っているということである。結果、政権与党内では保守派が勢力を増すことになる。
保守派はAfDにより親和的である。彼らが与党内で主流になれば、メルケル首相の理念が否定され、与党内がより極右寄りに傾斜していく可能性が高まる。
右派は左派よりもトランプ主義に取り込まれやすいのは自明の理だ。そうなればAfDの巻き返しも大いにあり得る。決して予断は許されない。
世界中で勢いを増しているトランプ主義は、2年後の米大統領選でトランプ大統領が再選を果たせば、もはや誰にも止められないほどの強いトレンドになるだろう。
そういう世界だからこそ、排外差別とネトウヨ・ヘイトイズムを信条とするトランプ主義に異を唱える者は、強い潮流に流されないよう決然とした態度で対抗しなければならない。
トランプ主義の行き着く果ての果てには、「いつか来た道」に至る陥穽が待ち受けている可能性が高い。トランプ主義は必ず阻止されなければならないのである。
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