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横綱稀勢の里は引退して荒磯親方となった。その荒磯親方が、大相撲3月場所の7日目にNHKの大相撲中継の解説者として登場した。

無口だった現役時代とは打って変わってよくしゃべり、うまく解説し、明るく、いきいきとした雰囲気を発散していてとても感じが良かった。

僕は相変わらずNHKの大相撲中継を衛星放送で観ている。仕事や旅で家を留守にしていない限り毎場所。毎日。

だが最近は、解説の北の富士勝昭さんが出演する日以外は、番組の全てを通しで観ることはほとんどない。録画をしておき、仕切りの部分を早送りでスキップして、勝負の映像だけを楽しむ。

大相撲観戦法としては邪道かもしれないが、本来は気合を高揚させて時間前でも立つべき仕切りの内容は、ただ制限時間を待つだけのだらけた儀式に成り下がっていてつまらない。

もっとつまらないのは、緩慢な儀式の間に聞かされる番組解説者の親方たちのダベリだ。ほとんどが陳腐で無内容で、且つ致命的なのは聞いていて少しも楽しめない。

唯一の例外が北の富士勝昭さん。かつては強い横綱のひとりだった男らしく、取り組みの技術解説が明快な上に、力士への厳しい愛が言葉にこもり、さりげなく口に出される人生論も屈折があって味わい深い。なによりも聞いていて楽しい。

ついでだから言及しておくが、彼の対極にいた解説者が角界から完全に姿を消した貴乃花親方だ。北の富士よりもはるかに強い横綱だった貴乃花の解説は、下手を通り越して異様だった。

断っておくけれども僕は現役時代の貴乃花の大ファンだった。引退後の貴乃花親方もストイックな印象が良かった。しかし、相撲協会との確執が明らかになっていく過程で、強い違和感を覚えるようになった。

貴乃花親方が、相撲は日本国体を担うものであり (相撲を通して)日本を取り戻すことのみが、私の大義であり大道である、などと神がかり的な言動をし始めたからだ。

彼の奇怪な思想と、相撲番組の解説者としては完全失格とも見えた解説振りは、おそらく通底している。解説になっていない解説、というのが彼のしゃべりの特徴だったが、相撲を国体に結びつける勘違い振りは、笑止を超えて不気味でさえある。


閑話休題

最低の解説者貴乃花と、最高の解説者北の富士のあいだにいるのが、稀勢の里あらため荒磯親方である。彼の解説は、初々しい中にもプロのたたずまいがあって、将来とても有望に見えた。

僕は5年前、次のような内容の話をここに書いた。

NHK大相撲解説者番付:

東横綱 - 北の富士勝昭   西横綱 - 不在

大関 - 九重親方 

小結 - 舞の海  琴欧州

平幕 - 貴乃花親方を除く全員

序の口 - 貴乃花親方

貴乃花親方は、テレビの解説者席などに座ってはいけない。元「天才ガチンコ横綱」のままでいるべきだ。解説者として登場するたびに、過去の栄光に傷をつ けてしまっている。解説者の資質、つまりシャベリの能力はほぼゼロだということにNHKも気づいて、どうやら彼を呼ばない方向でいるらしいのは喜ばしいことだ。

琴欧州親方は、引退直後の今年5月場所の6日目に、NHK大相撲中継の解説者として放送席に座った。それには現役を引退したばかりの彼への慰労の意味合いもあっただろう。ヨーロッパ人初の大関、そして ヨーロッパ人初の親方へ、という経歴への物珍しさもあっただろう。また、NHKとしては彼に解説者としての資質があるかどうかを試す意味合いもあっただろ う。あるいは解説者としての資質ありと見抜いていて、実際に力量を測ろうとしたのかもしれない。

結論を先に言うと、琴欧州は僕がいつも感 じてきたように、人柄が良くて謙虚で礼儀正しいりっぱな元大関だった。そして解説者としても間違いなくうまくやっていけると思った。その後九州場所を含めて彼は何度かNHKの解説者席に座った。現在のNHKの大相撲中継の解説者は、前述したように北の富士勝昭さんが最上、貴乃花親方が最低、という図式だが、琴欧州親方は既に中の上くらいの力量があると僕は感じている。

多くの日本人親方を差し置いて彼を番付で小結に格付けしたのは、僕からのご祝儀の意味合いももちろんある。だがそればかりではなく、通り一遍のことしか言わない(言えない)解説者群の中にあって、ちょっと相撲にうるさい人々も頷く視点での意見開陳ができる実力をも考慮してのことである。


以前のこの記事では書きそびれてしまったが、NHK解説者のうち元大関琴風の尾車親方は、解説者としては大関級の九重親方(故人)と小結の舞の海&琴欧州の間くらいの力量、また魅力があると思う。

今回初出演の稀勢の里・荒磯親方は、さすがに北の富士さんには及ばない。が、新鮮で魅力的という観点から大関の九重親方の上を行くと思う。九重親方は無念にも亡くなってしまっているが。

横綱としてのキャリアと、男っぷりを競う人生経験では、稀勢の里・荒磯親方は北の富士さんを越えることはできない。優勝10回と2回が2人の生涯成績で、ダンディな夜の帝王が北の富士、生真面目な茨城の好青年が稀勢の里、という具合なのだから。

だが今後の相撲解説者人生においては、勝負の行方は誰にもわからない。北の富士さんはすでに全容が明らかな解説者だが、荒磯親方は未知の、糊しろの大きなスター解説者候補なのだから。

今後は彼の解説の日の相撲中継もじっくりと観ていこうと思う。

やれやれ、またやることが増えてしまった・・人生短かくて時間がなさ過ぎるというのに。。。


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