ヌルスルタン・ナザルバーエフ
まったくの思い違い、徹頭徹尾の錯覚というものがある。カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバーエフ大統領に対する僕の印象がまさにそれだった。
ナザルバーエフ・カザフスタン大統領が、ほぼ30年にわたった長期政権を手放して退任したとのニュースを聞き、ネットその他で確認をするうちに僕は自分の思い違いに気づいた。
僕の中ではナザルバーエフ大統領は、旧ソビエト連邦の恐怖政治を終わらせたゴルバチョフやシェワルナゼの系譜の政治家で、どちらかというとリベラルな印象があった。
シェワルナゼとナザルバーエフはソビエト崩壊後に独立したグルジア(ジョージア)とカザフスタンの大統領として鮮烈な印象を残した。
ソ連ゴルバチョフの右腕であり政権の外相だったシェワルナゼは、新生グルジアの大統領として2003年まで務めた。一方ナザルバーエフは1991年からつい先日まで政権の座にあった。
30年近くも権力の座に居すわるのは独裁者以外にはありえない。それにもかかわらずに僕は彼を民主的な政治家と思い込んでいたのだ。
その理由は:
1.彼が「リベラル」派のゴルバチョフやシェワルナゼに加担してソ連を崩壊させたこと。
2.1の結果としてカザフスタンの独立に貢献しこと。
3.カザフスタン大統領として民主政治を行ったこと。
4.日本人的な風貌で親しみが持て、従って信用できること。
そうした理由はほとんどすべて僕の思い込みである。誤解の最大の原因は僕がカザフスタン情勢に無知だったことだ。
事実、僕はカザフスタンについてあまり興味もなかったし、勉強することもなかった。1から4を漠然と心に思い描いていた。
先日の彼の退任のニュースの内容さえ僕は誤解、錯覚した。つまり彼が政権を「自主的かつ民主的に」委譲し退任した、と考えたのだ。
だがその内容は自主的ではあるものの、断じて民主的なものではないと分かった。それは独裁者の自主的な権限委譲に酷似しているのである。
念入りに調べてみるまでもなく、彼は自分の後継者として議会上院のトカエフ議長を大統領代行にすえ、自身は国家安全保障会議議長などの要職のポストについた。
要するに今後も黒幕として、あるいは「上皇」として背後から権力を行使するということだ。トカエフ大統領代行はナザレバーエフ大統領の傀儡にすぎない。
パペットのトカエフ大統領代行は早速、カザフスタンの首都の名称をアスタナからナザルバーエフ大統領の名前であるヌルスルタンに変更すると表明した。
さらにむしずが走る情報がある。ナザルバーエフ大統領は自分の長女をトカエフ上院議長の後釜にすえ、且つ彼女は来年春に行われる大統領選に出馬することが決まっているという。
おそらく彼女の当選そのものも実は既に決まっているのではないか。そうしたことを思わずにはいられないほど一連の出来事には茶番の色合いが濃い。
要するにナザルバーエフ大統領は、中・露・北朝鮮また中東ほかの世界中のあらゆる形の反民主主義、横暴独裁政権のタイラントと「同じ穴のムジナ」に過ぎないのである。
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