
天皇代替わりに合わせるように、安倍首相とトランプ大統領が4月、5月、6月と3回連続で首脳会談を行うという不思議な話は、日本のメディアの関心をあまり買っていないようだ。
トランプ大統領は5月に国賓として来日し新天皇と会見する。新天皇が即位後初めて会見する外国首脳がトランプ大統領、という仕組みだ。一連の行事の主要目的はそこにあるように見える。
日本の主要メディアは政府発表のスケジュールを短く伝えただけだ。立て続けに3度も首脳会談を行うべき緊急課題があるとも思えないのに、あえて強行する異様な状況には口をつぐんでいる。
異様さに気づかないわけではなく、例によって安倍一強政権への恐れや忖度があるのだろうか。たとえそうではなくても、今回の場合は皇室への遠慮もからんでいるのかもしれない。
忖度や遠慮がジャーナリズムさえ凌駕するのが日本の神秘だ。いつになったら権力への監視や批判がジャーナリズムの生命線であることを理解するのだろうか。
トランプ大統領はその後、6月28、29日にも来日して大阪でのG20会議に出席し安倍首相とまた会談する予定。4月の安倍首相の米国訪問に始まった不可解な3連続会談がそこで終了するのである。
5月の訪日ではトランプ大統領は、新天皇と会う以外には大相撲観戦をしたり、安倍首相と例によってノーテンキなゴルフ遊びに興じるだけだ。結局、世界の首脳に先がけて、同大統領を新天皇に会わせることが主題だからだろう。
退位して上皇になったばかりの前天皇はひそかに、だが気をつけて吟味すれば時にはあからさまな言辞で、安倍首相に敵対していた。憲法護持、国民重視、沖縄擁護、日本の戦争責任追及などなど、安倍首相がいやがる内容ばかりだ。
そこで安倍首相は、目の上のたんこぶ的存在だった前天皇が退位した機をとらえて、新天皇を取り込む画策を立てた。その作戦の一環としてトランプ大統領にも協力を頼んでいる、という見方は荒唐無稽に過ぎるだろうか。
そんな策略に乗るトランプさんは-いまさらおどろくようなことではないが-人としての器のレベルが相棒の安倍さんとどっこいどっこいの寂しい資質であることを露呈しているようで、見ていて空しい限りである。
それにしても、安倍さんが目立たない動きや術策で、やりたい放題をやっているように見える現行の日本の政治状況は驚くばかりだ。それが高じて天皇までも思い通りに動かそうとしているらしい姿は、まるで8世紀に登場して世間を騒がせた道鏡のようだ。
道鏡は天皇になる野心まで抱いていた。さすがに安倍さんにはそこまでの山気 はないだろうが、憲法改正に向けて新天皇を何とか懐柔したい意志があっても不思議ではない。
政治家としてまた国のトップとして、安倍さんがそういう風に動くのは、事態への賛否は別にして、理解できることだ。彼は憲法改正という自らの政治目的を達成するためにそう策しているのだから。
安倍さんのスタンスに穏便な形ながら断固として異議を唱え続けた前天皇が、平和憲法護持の立場であったのは隠しようもない事実である。安倍首相は新天皇が上皇の意思を受け継いでいるかもしれないことが不安なのだろう。
新天皇の「おことば」などに微妙にあらわれる変化から、安倍政権が天皇即位の前の皇太子さんに近づき、揺さぶりをかけてきたであろうことが推測できる。安倍首相は本気で天皇の籠絡を試みているようだ。
彼は政治目的の達成のためには手段を選ばない構えだ。日本の真の独立を阻むアメリカのトランプ大統領に借りを作ってでも、天皇の抱き込みを試みようとしているように見える。
それは大胆であると同時に危険な動きだ。なぜなら世話になったトランプさんにますます逆らえなくなって、今後も長きにわたって彼の阿諛外交が続き、日本のアメリカ従属がさらに深まりかねないからだ。
安倍首相の大胆さは無知と無恥から来るものである。それはトランプ氏が大統領当選を決めたとき、就任前にもかかわらずに彼のもとに駆けつけて諂笑して以来、一貫して続いている安倍さんの最大の特徴だ。
世界の大半がトランプ勝利に眉をひそめている最中に、「何らの批判精神もなく」彼に取り入った安倍さんの行為は世界を驚かせた。繰り返しになるがそこには安倍さんならではの無恥と無知が如実に現れていた。
しかし、矛盾するようだが、ここでは安倍首相に対してフェアなことも言っておきたい。
トランプさんが大統領選に勝利した2016年、安倍首相が世界の首脳に先駆けてトランプタワーに乗り込んで、彼を祝福し友好親善を推し進めたのは日本のトップとしては十分に理解できる行為だ。
なぜならトランプさんがたとえ「何者であれ」彼は米国大統領に当選したのだから、安倍さんは「日本の国益のために」未来のアメリカ大統領に挨拶をしておこうとして動いた側面もあるからだ。
安倍さんの行動のすべてが悪いのではない。だが安倍さんはトランプさんとのお友達関係を一方的に、かつ懸命に強調しつづけるものの、実は彼のポチでしかない卑屈な立ち回りに終始している。
自尊心のかけらもないような追従外交方ばかりを続けている。それでいて、一向にその事実に気づいていないように見える。そこが大きな問題なのである。
トランプ大統領は、異様な指導者だ。彼の施策はこれまでのところネガティブなものが多い。だがフェイクニュースを流して彼の主張こそ真実だと言い張る行動によって、それまで完璧に見えた大手メディアにもまたフェイクな顔がある、という事実を暴き出した功績は大きい。
同時にトランプ氏は、「差別や憎しみや偏見などを隠さずに、しかも汚い言葉を使って公言しても構わない」という考えを人々の頭に植え付けてしまった。つい最近までタブーだった「罵詈や雑言も許される」といった間違ったメッセージを全世界に送ってしまったのだ。
それはつまり、人類が多くの犠牲と長い時間を費やして獲得した「寛容で自由で且つ差別や偏見のない社会の構築こそ重要だ」というコンセプトを粉々に砕いてしまったことを意味する。その罪は重い。異様な指導者であるトランプ大統領の奇異に気づかない安倍首相もまた異様だ。
2人の異様は、これまでのところ、安倍首相がトランプ大統領をノーベル平和賞候補に推薦した、という噴飯茶番によって極限に至った。だがノーベル賞の茶番は、オバマ前大統領への平和賞やボブ・ディランへの文学賞授与などでも示されたから、おどろくほどのことではないのかもしれない。
安倍政権に遠慮する大手メディアと、ネトウヨ排外差別主義者らが声高にネットを席巻する日本国内にいるとあるいはよく見えないかもしれないが、欧州を含む世界の良心は、安倍&トランプという奇妙なカップルの、友情なのか政治パフォーマンスなのか判別できない「奇怪なダンス」を窃笑しつつ“遠巻き”に監視している。
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