
ジューン・ブライドという言葉がある。ジューンは6月、ブライドは花嫁。「6月の花嫁は幸せになる」という意味の英語である。ギリシャ神話から出た古代ローマ神話のうちの、結婚の女神JUNO(ジュノー)に由来する。
語源を季節や農作業に結び付けて探る考え方もある。僕もそれを気候にからませて考えたい方だ。ジューン・ブライドは、結婚式を「光がまぶしく空気がさわやかな6月」に行えば花嫁が麗しく輝く、という意味にも取れると思う。
梅雨でうっとうしい日本とは違って、ヨーロッパの6月は暑くなく寒くなく、かつバラなどに代表される花々が咲き乱れる1年で最も美しい季節なのである。
ところで僕にとっては6月は、例年ジューンブ・ライドならぬ「ジューン・バカンス」の季節である。
ここイタリアを含むヨーロッパのバカンス期は、6月にぼちぼち始まって7月に加速し、8月のピークを経て、9月いっぱいをかけてゆるゆると終息する。
しかし最適なバカンス時期は6月だと僕は思っている。花が咲き誇る大陸や島々の水無月は雨が少なく、しかも夏時間の真っ最中だから、南欧でも昼が一番長い季節。
その気になれば夜の8時、9時までビーチで過ごすこともできる。ビーチの後で食事や遊びに繰り出す夜の歓楽街の風は、暑い7月や8月とは違って涼しい。
またバカンス最盛期ではないその頃は人出が少ない。それ自体も好都合だが、人が混み合わない分ホテルやビーチ施設の料金など、あらゆるものの値段も安い。良いことずくめなのである。
6月のバカンスの欠点は、普通の勤め人には休みを取るのが難しいという点だ。欧州全体もまたイタリアも、サラリーマンが休めるのはやはり圧倒的に8月が普通なのである。
僕はフリーランスのテレビディレクターというヤクザな商売をしているおかげで、6月以外の季節に普通以上に頑張って仕事をする代わりに、皆が休めない時間に休めるというシアワセに恵まれてきた。
そんなわけでことしもこれから休暇に向かう。最近はほぼ毎年ギリシャで過ごすが、昨年に続いて今回もイタリア国内のサルデーニャ島へ。
実はギリシャのパロス島行きを計画したのだが、移動や宿泊の予定がうまく立てられないのでサルデーニャ島に変更した。ことしは昨年とは逆に島の南部に滞在する。
サルデーニャ島は地中海の西部に浮かぶ島。一方パロス島は地中海東部のエーゲ海域にある。地中海では西部よりも東部のほうが乾燥していて気温も高い。
乾燥し且つ気温が高ければ、空気が澄んで空が青い。空が青ければ海はなお青い。サルデーニャ島よりも、ギリシャの島々の空と海がより深い青に見えるのはそれが理由だ。
そうはいうものの、バカンスでは海の色よりも海の「空気」の方が大切だ。空気はより乾いて澄んでいるほうが健康はもちろん遊びにも良い。その意味では地中海西部に浮かぶサルデーニャ島は、東部にあるパロス島に及ばない。
だがそれは、たとえばイタリアの赤ワインの双璧であるブルネッロ・ディ・モンタルチーノとバローロを比較するようなもので、優劣は個々人の好みに帰する。どちらも優れているのだ。
それどころか両ブランドは双璧ではない。イタリアの赤ワインにはバルバレスコもアマローネもある、と誰かが言い出せばそれはその通りだからもう切りがなくなる。優れた赤ワインはイタリアにはほかにも多いのだ。
地中海が、パロス島とサルデーニャ島の浮かぶエーゲ海またティレニア海のみならず、イオニア海 、リグリア海、 バレアレス海 、アドリア海 、アルボラン海、さらにトルコのマルマラ海など、いずれ劣らぬ美しい碧海で成り立っているように。。。
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