かわいいチビちゃん



大相撲九州場所で白鵬が14勝1敗で史上最多43回目の優勝を果たした。すごいのひと言に尽きる。

ところが、大横綱なのに彼の土俵上の所作がみにくい。しかも年々ひどくなっている、と感じる。

そこで僕は九州場所中に次のような苦言を書いた。

(大相撲九州場所は)好調の朝乃山が負けて、どうやら白鵬の優勝が見えてきたようだが、その白鵬の土俵態度が良くない。良くないのに皆が慣れてしまったのか誰も何も言わない。辛口解説が心地よい北の富士さんでさえも。

(幸い空振りにはなるものの)倒れた相手をさらに殴る仕草、鼻や口をゆがめての示威行為、立ち合い前に使ったタオルを投げ捨てる横柄な態度、賞金を振り回す下品な振る舞い、など、など。時の経過とともに彼の所作は不穏になるばかりだ。せっかく日本国籍を取得して、引退後も大相撲界に残る覚悟を示しているのに、なぜ大横綱らしい立ち居振舞いができないのだろう。どっしりと構えたり蹲踞をしている彼の姿は、絵になるほどりっぱなのに。

年を重ねるごとに行儀が悪くなるのは明らかに心の問題だ。誰か彼の心を素直な軌道に乗せてやらないと、せっかくの大横綱が晩節を汚す結果にもなりかねない。そうではなくとも、引退後の活躍はおぼつかないのではないか、とファンのひとりとして心配になる。


僕はその気持ちのまま彼の優勝インタビューを見た。今回はどんな浅ましい言動をするのだろうか、と正直ハラハラするような気分でいた。

彼は2017年には優勝インタビューで観客に万歳三唱を要求し、ことし3月場所でも3本締めを嚮導して批判を受けている。

そういう派手な愚行とは別に、彼はインタビューの中で慎みのない受け答えを連発して、見ているこちらを恥ずかしがらせたりすることが多い。

それらの節度のない言動は、彼の日本語の拙さからくるものもあるだろうが、大半が自らの強さを誇示したい我欲と驕りから出ているように見える。

ところが、今回の優勝インタビューでは、愚昧な答弁や言動はほとんどなく、“すがすがしい”と形容しても良い内容に終始した。彼のファンの1人として僕は「やればできるじゃないか」と喜んだ。

前回エントリーで彼を酷評した手前、僕は優勝インタビューで自分の予想をくつがえしてくれた白鵬の横綱らしい品格にかならず言及するのが筋、と気にかけながら筆を取れずにいた。

そんな折り横綱審議委員会が、九州場所中の白鵬の取り口は横綱として「見苦しい」「やりすぎ」などと厳しく批判するコメントを出した。

そこでは特に、12日目の遠藤戦で見せたような、張り手とかち上げを槍玉にあげている。遠藤戦では左で張り手をしながら右で肘打ち同然のかち上げをくらわせた。

強い横綱は張り手やかち上げなどの喧嘩ワザはできれば使わないほうが品格がある、というのは相撲文化にかんがみて、大いに納得できることである。

だが僕は、白鵬の問題は相撲のルール上許されている張り手やかち上げの乱発ではなく、土俵上のたしなみのない所作の数々や、唯我独尊の心を隠し切れない稚拙な言行にこそあると思う。

白鵬が張り手やかち上げを繰り出して来るときには、彼の脇が空くということである。ならば相手はそこを利して差し手をねじ込むなどの戦略を考えるべきだ。

あるいは白鵬に対抗して、こちらも張り手やかち上げをぶちかますくらいの気概を持って立ち合いに臨むべきだ。

白鵬の相手がそれをしないのは、張り手やかち上げが相手を殴るのと同様の喧嘩ワザだから、「横綱に失礼」という強いためらいがあるからだ。

白鵬自身はそれらの技が相撲規則で認められているから使う、とそこかしこで言明している。横綱の品格にふさわしくないかもしれないが、彼の主張の方が正しいと僕は思う。

それらのワザが大相撲の格式に合わないのならば、さっさと禁じ手にしてしまえばいいのである。

要するに何が言いたいのかというと、横綱審議委員会は白鵬の相撲の戦法を問題にするなら、対戦相手の対抗法も問題にするべき、ということだ。

張り手やかち上げは威力のある手法だが、それを使うことによるリスクも伴う。白鵬はそのリスクを冒しながらワザを繰り出している。

対戦相手は白鵬のそのリスク、つまり脇が空きやすいという弱点を突かないから負けるのだ。横綱審議委員会はそこでは品格よりも対戦相手の怠慢を問題にしたほうがいい。

もう一度言う。横綱としての白鵬の不体裁は相撲テクニックにあるのではなく、相撲規則に載っていない種々の言動の見苦しさの中にこそあるのだ。

白鵬にはぜひそのことに気づいてほしい。また、土俵上では白鵬のビンタを張り、顎にかち上げをぶちかますような若手力士が早く出てほしい。

またそうすることが当たり前、というふうに相撲界のメンタリティーが変わってほしい。もっとも長身の白鵬に張り手やかち上げをぶち込むのは至難のワザではあるが。


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