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来たる12月12日のイギリスの総選挙を経て、同国のEU(欧州連合)離脱つまりBrexitが完遂されそうな状況である。それはとても残念なことだ。

BrexitでイギリスがEUを離脱しても、EU加盟国の国民ではない僕には直接の不利益はもたらされない。恩恵も一切受けない。なぜなら僕はイタリアの永住権はあるもののイタリア国籍を持たない日本人だからだ。

「EU国民」のイタリア人の場合、Brexitの後は英国へ渡航するのにパスポートが必要になったり、同国で自由に職に就けなくなったり、保険が使えなくなったり、税金が高くなったり等々のさまざまな不都合が生じる。

一方「EU外人」の僕と英国との関係は、僕が日本に住んでいてもイタリアにいても何も変わらない。彼の国に渡るには常にパスポートが必要だし就職は「EU外人」として大きく制限される。

その他のすべてのケースでも、僕は日本在住の日本人が英国に旅する場合とそっくり同じ待遇しか受けられない。離脱してもしなくても同様なのだ。その意味ではBrexitなんて僕にとってはどうでもいいことだ。

それでも僕はBrexitに強く反対する。なぜか。それは強いEUが世界の民主主義と平和と自由と人権等々にとってきわめて重要だからだ。英国が離脱すればEUの力が弱くなる。それがBrexitに反対する第一の理由だ。

世界には現在、排外差別主義者のトランプ米大統領と彼に追従するミニ・トランプ主義者が権力を持つ国々が跋扈している。当の米国を筆頭に、中国、ロシア、ブラジル、中東各国、南米、また英国内の急進Brexit勢力、日本の安倍政権などもどちらかといえば残念ながらそうだ。

反移民、人種差別、宗教差別などを旗印にして、「差別や憎しみや不寛容や偏見を隠さずに、汚い言葉を使って口に出しても構わない」と考え、そのように行動するトランプ大統領以下の反動勢力に対抗できる最大の力がEUだ。

EUの結束は、2009年に始まった欧州ソブリン危機、2015年にピークを迎えた難民問題、2016年のBrexit決定などで、大幅に乱れてきた。同時にEU参加国の間には極右政党や極左勢力が台頭して、欧州の核である民主主義や自由や寛容や平和主義の精神が貶められかねない状況が生まれた。

そうした中でEUは、トランプ政権に対抗しながらロシアと中国の勢力拡大にも目を配らなければならない。プーチンと習近平が率いる変形独裁共産主義の2大国は、EUおよび欧州にとっては、ほぼ永遠に警戒監視しながら同時に協調の道も探らなければならない厄介な相手である。

内外に難問を抱えて正念場に立たされているEUは、連帯意識を再構築し団結して、事態に対面していかなければならない。 そのEUにとっては連合内の主要国である英国が抜けるBrexit騒動は、大きなマイナスにこそなれ決してプラスではありえない。

EUは強い戦争抑止力を持つメカニズムでもある。かつて欧州は、各国家間で血まみれの闘争やいがみ合いや戦争を繰り返してきた。しかしEUという参加各国が経済的な利害を共有する仕組みを構築することで、対話と開明と寛容に裏打ちされた平和主義と民主主義を獲得した。

EUは経済共同体として出発した。が、いまや加盟国間の経済の結びつきだけではなく、社会、政治、文化の面でも密接に絡み合って、究極の戦争回避装置という役割を担うまでになったのである。英国がその枠組みからはずれるのは将来に禍根を残す可能性が高い。

将来への禍根という意味では、Brexitは当の英国を含むEUの若者に与える損害も大きい。最大最悪の損失は、英国の若者がEU域内の若者と自由に行き来して、意見交換をし刺激し合い共に成長することがほぼ不可能になることだ。

大学をはじめとする教育機関のあいだの闊達な交流もなくなり、仕事環境もEU全体から狭い英国内へと極端に萎縮する。それはEU域の若者にとっても大きな損失だ。彼らも英国に自由に渡れなくなり視野の拡大や成長や協力ができなくなるからだ。

3年前の国民投票でBrexitに賛成票を入れたのは、若者ではなく大人、それもより高齢の国民が多かったことが知られている。ジコチュー且つ視野狭窄のジジババらが、極右勢力やトランプ主義者に加担して英国の若者の未来を奪った、という側面もあるのだ。

それやこれやで、Brexitの行方をおそらく9割方決定するであろう、12月12日のイギリス総選挙の動きをとても気にしている。EU信奉者で英国ファンの僕は、Brexitが反故になることを依然として期待しているが見通しは暗い。

Brexitを主導したナイジェル・ファラージ氏率いるその名も「Brexit党」が、与党・保守党が議席を持つ300余の選挙区に立候補者を立てないと決めたからだ。

保守党は選挙戦の初めから世論調査で大きくリードしているが、「Brexit党」の決定で同党の優勢がますます固まり、選挙後にBrexitが実行される可能性が高まった。

保守党の候補者のほとんどは、ジョンソン首相がEUとのあいだでまとめた離脱案を支持している。投票日までに情勢が劇的に変わらなければ、新たに成立する議会で離脱案が承認され、英国は離脱期限である1月31日さえ待たずにEUから離脱する可能性もある。

ナイジェル・ファラージ氏は、米トランプ大統領やマテオ・サルヴィーニ・イタリア同盟党首またマリーヌ・ルペン・フランス連合党首などと親和的な政治信条を抱く、政治的臭覚の鋭いハゲタカ・ポピュリストだ。

彼は2016年の国民投票の際、架空数字や過大表現また故意の間違いなど、捏造にも近い情報を拡散する手法をふんだんに使って、人々をミスリードしたと非難されることも多い。

だが僕は、Brexitの是非を問う国民投票を攪乱して、僅差ながら離脱賛成の結果を招き寄せた彼の政治手腕には脱帽した、と告白せざるを得ない。

国民投票では、事態の真の意味を理解しないまま、多くの国民がファラージ氏に代表されるポピュリストらに乗せられて離脱賛成票を投じてしまった、とされる。

だが彼らが離脱賛成に回ったのは、増え続ける移民への怒り、あらゆるものに規制をかけるEU官僚への反感、EUへの拠出金が多過ぎるという不公平感なども理由だった。

そればかりではない。英国民の多くが、EUに奪われた主権を取り戻す、という高揚感に我を忘れたこともまた事実だ。そこには大英帝国の亡霊に幻惑されて、いつもかすかに驕傲に流れてしまう民心、という英国独特の悲劇がある。

EU離脱による英国の利益は、ファラージ氏やジョンソン首相など離脱急進派が主張するほどの規模にはならないないだろう。なぜなら離脱ででこうむる損失のほうがあまりにも大きすぎるからだ。

僕個人への直接的な損害はもたらさないものの、英国のためにならず、EUのためにも、また決して世界のためにもならないBrexitに僕は反対する。

なぜならつまるところそれは、巡りめぐって結局僕個人にもまた故国日本にも大きな不利益をもたらす、きわめて重大な政治的動乱と考えるからである。



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