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2019年12月月12日、Brexit(英国のEU離脱 )を争点にして行われた英総選挙で、離脱を主張するボリス・ジョンソン首相率いる保守党が圧勝し同国のEU離脱がほぼ確定した。周知のようにBrexitは2016年、その是非を問う国民投票によって決定していたが、議会の承認が得られないために実行できず、紆余曲折を繰り返した。

国民投票で民意を離脱へと先導したのは、「英国のEUからの独立」を旗じるしの一つにして愛国心に訴えるナショナリストやポピュリスト、あるいは排外差別主義者らだった。折しもそれは米大統領選でドナルド・トランプ共和党候補が、差別や憎しみや不寛容や偏見を隠さずに、汚い言葉を使って口に出しても構わないと考え、そのように選挙運動を展開して米国民のおよそ半数の共感を獲得しつつある時期に重なっていた。

トランプ候補は英国世論の右傾化の援護風も少なからず受けて当選。その出来事は、ひるがえって、台頭しつつあった欧州の極右勢力を活気づけた。翌2017年にはフランス極右のマリーヌ・ルペン氏があわやフランス大統領に当選かというところまで躍進した。それを受けるようにドイツでも同年、極右政党の「ドイツのための選択肢」が飛躍して一気に議会第3党になる事態になった。そうした風潮の中でオランダ、オーストリア、ギリシャ等々でも極右勢力が支持を伸ばし続けた。

そして2018年、ついにここイタリアで極右政党の同盟が左派ポピュリストの五つ星運動と共に政権を掌握した。欧米におけるそれらの政治潮流は、目に見える形でもまた水面下でも、全てつながっている。あえて言えば、世界から極右に近いナショナリストで歴史修正主義者、と見られている安倍首相率いる日本の現政権もその流れの中にある。

かつて欧州は各国間で血まみれの闘争や戦争を繰り返した。だが加盟各国が経済的な利害を共有するEUという仕組みを構築することで、対話と開明と寛容に裏打ちされた平和主義と民主主義を獲得した。経済共同体として出発したEUは、今や加盟国間の経済のみならず政治、社会、文化などの面でも密接に絡み合って、究極の「戦争回避装置」という役割まで担うようになった。

だがEUの結束は、2009年に始まった欧州ソブリン(債務)危機、2015年にピークを迎えた難民問題、2016年のBrexit国民投票騒動等々で大幅に乱れてきた。同時にEU域内には前述のように極右勢力が台頭して、欧州の核である民主主義や自由や寛容や平和主義の精神が貶められかねない状況が生まれた。

EUは自らの内の極右勢力と対峙しつつ米トランプ政権に対抗し、ロシアと中国の勢力拡大にも目を配っていかなければならない。内外に難問を抱えて呻吟 しているEUの最大の課題はしかし、失われつつある加盟国間の連帯意識の再構築である。それがあればこそ難問の数々にも対応できる。そのEUにとっては連合内の主要国である英国が抜けるBrexitは大きな痛手だ。

英国はBrexitでEUから去っても、政治・経済・社会・文化の成熟した世界一の「民主主義大国」として、あらゆる面でうまくやっていくだろう。離脱後しばらくの間は、自由貿易協定を巡ってのEUとの厳しい交渉や、混乱や不利益や停滞も必ずあるだろうが、それらは英国の自主独立を妨げない。

EU域内の人々の目には、英国の自主独立の精神はかつての大英帝国の夢の残滓がからみついた驕(おご)り、と映ってしまうことがよくある。そこには真実のかけらがある。だが、その負のレガシーはさて置き、英国民の「我が道を行く」という自恃の精神は本物でありすばらしい。その英国民の選択は尊重されるべきものだ。

そうはいうものの独立独歩の英国には、力強さと共に不安で心もとない側面もある。その最たるものが連合王国としての国の結束の行く末だ。英国は周知のようにイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド から成る連合王国だが、Brexitによって連合の堅実性が怪しくなってきた。スコットランドと北アイルランドに確執の火種がくすぶっているのだ。

特にスコットランドは、かねてから独立志向が強いところへもってきて、住民の多くがBrexitに強く反発している。スコットランドは今後は、EUへの独自参加を模索すると同時に、独立へ向けての運動を活発化させる可能性がある。北アイルランドも同じだ。英国はもしかすると、EUからの離脱を機に分裂崩壊へと向かい、2地域が独立国としてEUに加盟する日が来るかもしれない。

Brexitを主導したボリス・ジョンソン首相が、連合王国をまとめていけるかどうかは大きな疑問だ。総選挙のキャンペーンで明らかになったように、彼はどちらかと言えば分断を煽ることで政治力を発揮する独断専行型の政治家だ。Brexitのように2分化された民意が正面からぶつかる政治状況では、独断専行が図に当たれば今回の総選挙のように大きな勝ちを収めることができる。

言葉を変えれば、2分化した民意の一方をけしかけて、さらに分断を鼓舞して勝ち馬に乗るのだ。その手法は融和団結とは真逆のコンセプトだ。総選挙前までのそうしたジョンソン首相の在り方のままなら、彼の求心力は長くはもたないと考えるのが常識的だろう。彼が今後、連合王国を束ねることができると見るのは難しい。

英連合王国はもしかすると、Brexitを機に分裂解体へと向かい、ジョンソン首相は英連合王国を崩壊させた同国最後の総理大臣、として歴史に名を刻まれるかもしれない。だが逆に彼は、Brexitを熱狂的に援護するコアな支持者を基盤に連合王国の結束を守りきるのかもしれない。米トランプ大統領が、多くの 瑕疵 をさらしながらも岩盤支持者に後押しされてうまく政権を運営し、弾劾裁判さえ乗り越えようとしているように。

もしも英連合王国が崩壊するならば、大局的な見地からは歓迎するべきことだ。なぜなら少なくともスコットランドと北アイルランドが将来は独立国としてEUに加盟する可能性が高いからだ。2国の参加はEUを強くする。それはEUの体制強化につながる。世界の民主主義にとっては、EU外にある英国よりもEUそのもののの結束と強化の方がはるかに重要だから、それはブレグジットとは逆に大いに慶賀するべき未来である。


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