則イラスト鼻毛up800を100


新型コロナウイルスの巨大な被害国ここイタリアは言うに及ばず、世界中の国々のウイルス対策や言動や数字や立ち位置や心理状況がめまぐるしく変わって、それらを把握するのに文章ではとても追いつかないので箇条書きにしていってみることにした。いわば、これまで記してきた「書きそびれている事ども」のCovid-19版である。


2020年3月26日未明、僕の身近の89歳の女性がまた1人Covid19で亡くなった。友人の叔母である。ブレシャ市に住む彼女は、病院での治療を受けることができないまま自宅で亡くなった。病床の空きが全くなかったのである。同様の事態がイタリア、ロンバルディア州では頻繁に起きている。なお彼女はこのブログで言及しているパーティーにまつわる集団感染とは関係がない。

2月以降に亡くなった高齢者の大半は新型コロナウイルスの被害者だと見られ、僕らの友人知己の家族にも何件かのケースが実在する。中にはどうせ亡くなるのだから最後の思い出を汚したくない、としてウイルス検査を拒否しようとしたり、故人のウイルス検査が陽性だったとしてもその事実を公表しないケースなどもある。

だが、ウイルス検査を拒否することはほとんどの場合許されない。なぜなら亡くなる人がCovid19の患者なら、周囲にウイルスを感染させた可能性がある。だから当局はうむを言わさずに検査を実施する。従って通常の原因での死亡とされても、家族がそう告知するからに過ぎないケースも多い。

イタリアの一日当たりの感染者数が、わずかだが4日連続で減少している。専門家の一部にはイタリアの感染のピークがやってきたと見る者もいる。WHOも3月24日、イタリアの感染のピークが今週中にやってくるかもしれない、との声明を出している。だが死者の数は相変わらず多く、総計7000人を超えてからもやはり大きく増え続けている。

それでも-楽観視は全くできないが-イタリアが長い暗いトンネルを抜けつつあるかもしれない、というかすかな望みがある。独裁国家・中国のやり方をさえ連想させるイタリアの厳しい隔離・封鎖措置が、ウイルス拡散に歯止めをかけCovid19を抑え込めるかどうかは、当のイタリアは言うまでもなく世界全体にとっても重大な意味を持つ。なぜなら欧米の大半の国々を始めとする世界各国が、イタリアのやり方を踏襲してウイルスとの壮絶な戦いを進めているからだ。

2020年3月26日AM11時(伊時間)現在:イタリアの総感染者数は74386人。そこから死亡者と回復した患者の数を引くと実質の感染者は57521人である。一方アメリカの総感染者数は69197人。死亡者と回復した患者の合計はおよそ1268人。実質の感染者は67929人となって既にイタリアを大幅に上回っている。3月26日のイタリアの統計は7時間後のPM18時に出る。そこでは感染者数は大きくなるのが確実だ。それでも、イタリアの窮状と比較してさえアメリカの状況の悪化は酷いと分かる。

欧州では相変わらずイタリアが最悪の被害地だが、実は惨状はロンバルディア州を中心とする北イタリアに集中していて、中南部地域はまだまだ平穏だ。それは北イタリアにとっては大いなる不幸だが、イタリア全体として見れば「不幸中の幸い」とも形容できる状況だ。それというのも、繰り返し述べてきた通り、ロンバルディア州を筆頭にする北イタリアの各州の医療レベルは欧米の中でもトップクラスの質がある。日本の評論家などの中には、イタリアとドイツの感染者数と死者の割合を比較して、イタリアの医療の質は劣る、と知ったかぶりを言う者もぼちぼち出てきたが、彼らの言い分はいま述べたように知ったかぶりに過ぎない。ちなみに極端に数字の違うドイツではなく、たとえばフランスと比較してみればいい。

イタリアの死者が多いのは、高齢化社会という理由のほかに、感染者が爆発的に増えて重症者を十分にケアできないことが最大の理由だ。医療のレベルが低いからではなく、感染爆発があまりにも急速で巨大だったために集中医療病床が足りなくなったのだ。もちろん病床の多寡も医療レベルを計る要素の一つだろうが、イタリアを、いや、ロンバルディア州を襲った新型コロナウイルスの猛攻撃は、まるで津波にも似て医療現場をしたたかに傷めつけ破壊した。もしそれがより医療レベルの低い中南部で起こっていたなら、イタリアの惨状は、さらにもっと目を覆うばかりになっていただろう。

そして不幸なことに、北イタリアの重圧は近い将来、中南部、中でも南部イタリアに移っていく可能性がある。それというのも北イタリアに住む多くの南部イタリア出身者が、こぞって実家に向けて移動してしまったからだ。彼らは移動禁止措置を無視して動いた。おそらく多くの新型コロナウイルスと共に。たとえ北イタリアがCovid19危機を抜け出しても、残念ながらイタリアのそれはさらに長く続く可能性もあるのである。



facebook:masanorinakasone