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イタリアのCovid-19の死者が突出して多いのはなぜか、という質問を10人前後の皆さんからいただいた。ひとことで言えば今のところ、イタリアが高齢化社会だから、というのがその答えだ。

新型コロナウイルスは高齢者を多く攻撃し、重症化させ、死に至らしめる。そしてイタリアは欧州随一の高齢化社会であるため、必然的に死者が多くなるという理屈。今のところは専門家の間でさえそれ以上に納得のいく説明はなされていない。

その答えを最も良く知るはずの現場の医療関係者は、医療崩壊が深刻な状況の中で患者を救うための必死の仕事を続けていて、今はとてもそのことの説明や、分析や、もしかすると告発などに時間を割く余裕はない、というのが現実だろうと思う。

正確な答えは、パンデミックが終息し彼らが統計学ほか幅広い分野の専門家等も交えて分析・考察を行えるようになったときに、必ず明らかにされることだろう。

そうはいうものの、今このときに考えられる答えはあるのでそれを再び書いておくことにした。それは多くの情報とパンデミックの経緯と数値と、加えて現地にいることで得られる知見に基づいた、僕なりの分析によって導き出したものである。従って正確ではない可能性があることをあらかじめ断っておきたい。

専門知識と経験、また事実とエビデンスに基づいた学術的な考察は、いま述べたように近い将来きちんと導き出されることと思う。そうされなければならないほどに、イタリアのCovid-19の死者数は異様に大きいものに見える。

イタリアは欧州随一の老人大国。高齢者が多いのがCovid-19死亡率の高さにつながっている、というのが先に触れたように当のイタリアを含む欧州での通説である。65歳以上の者が全人口に占める割合、いわゆる高齢化率はイタリアでは23パーセントを超えている。ちなみに死亡者がイタリア並みに多い米国は16パーセントである。

イタリアでの被害が拡大したもうひとつの理由は、若者が祖父母などの高齢者と頻繁に交流する文化があること、という考察もある。だがそれは感染拡大の理由にはなっても、なぜ死者が多いのかの説明にはならないと思う。むろん感染が多いから死者も多い、という理屈は成り立つが。

イタリアの死者が多いのは高齢化社会のせい、という説はむろん正しい。だがそれだけが正解ではないと思う。感染者が爆発的に増えて医療は重症者を十分にケアできていない、というのもきわめて重要なポイントではないか。

Covid-19にまつわるイタリアの劇的な変化は2月22日に始まった。巨大津波のようなオーバーシュート(感染爆発)に襲われたのだ。ふいに足元をすくわれ、体勢を立て直す暇もないまま、さらにそれの波状攻撃を受けてにっちもさっちもいかなくなった。患者の数があまりにも多く、感染爆心地の北部イタリアの医療体制はパンクした。

別名、医療崩壊という名の恐慌に陥った医療の現場では、治療が全く行き届かず患者がバタバタと死んでいった。火事場騒ぎの中で、患者の生死を分けるトリアージなどもほとんどためらいなく進行して行った。いや敢えてトリアージを行うまでもなく、重症者は次々に死亡した。

患者が十分な治療を受けられない状況が急激にそして長く出現した。ピークの頃は患者の出現、入院、治療、死亡までの平均時間がたった8日間だったことでも明らかだ。さらに医師の感染、死亡もこれまでで116名と異様に多い。そのこともまた医療崩壊の惨劇を如実に物語っている。

日本の医療専門家や評論家の中には、イタリアがほぼ医療崩壊に陥った事態を、医療レベルが低いから、としたり顔で指摘する者が少なくない。彼らは日本式画一主義あるいは大勢順応・迎合主義にでっぷりと浸っていて、その毒に侵された目と頭脳でしか物が見えず考えられない。

そのため地域の多様性に富むイタリアの実情も自らの土俵に呼び込んで、「画一的」思考で判断しイタリアの医療レベルは低いと断じる。だが多様性が持ち味のイタリア社会には-その是非は別にして-平均的事案が少なく、突出しているものと劣悪なものが並存している。医療分野もその例に洩れない。

イタリア最大のCovid-19被災地である北部ロンバルディア州は、欧州全体でもトップクラスのGDPや生活水準を誇る場所である。従ってそういう場所は当然、医療レベルもトップクラスのものを備える。ロンバルディア州の医療レベルは欧州でもきわめて高いのだ。

そのロンバルディア州の高レベルの医療体制が、感染爆発であっさりと崩壊した。医療レベルが低かったからではなく、感染爆発の勢いがあまりに強烈だったからである。感染者の数が急激に増え、それに連れて高齢者が主体の重症者も激増した。そうやって遺体の山が築かれていった。

イタリアの医療レベルを全体で均らすと、中南部が弱い分確かにドイツなどの北欧よりは低いかもしれない。だが、ロンバルディア州を頂点にピエモンテ、ヴェネト、エミリアロマーニャなどの北部大規模州と周辺の小規模州は、ドイツほかの国々の医療レベルに引けをとらない質がある。

医療レベルの高いイタリアの北部州でさえ、新型コロナウイルスに自在に蹂躙された、というのが僕の論点である。感染爆発が中南部で起こっていたなら、イタリアの惨状は、さらにもっと辛いものなっていただろう。日本の知ったかぶり論者らは、イタリアを案ずるよりも足元の日本の今の医療態勢を憂慮して、政府の対応に物申すなどの役立つ言動をしたほうがいいのではないか。


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