ドゥオーモ+鳩+消毒AFP650


イタリア政府は先日、コロナ感染抑止策として導入したロックダウンを5月4日から7日周期で徐々に緩和して行き、6月3日に全面解除すると発表していた。

ところが営業許可が出るのが一番最後になるレストランなどの飲食業界と、美容業界から猛烈な抗議の声が挙がり、政府はそれに応える形で2週間前倒しして5月18日に全ての業種の営業再開を認める、と決めた。

収入の道を絶たれて苦しむ勤労者世帯と経済界から歓喜の声が沸きあがる中、ひとつ転遷があった。新型コロナウイルスの最大の被害地、北部ロンバルディア州が政府の決定に異議を唱えたのである。

ロンバルディア州のアッティリオ・フォンターナ知事が、2業種の営業開始を1週間遅らせて5月25日にする、と宣言した。するとすぐに隣接州のピエモンテが知事に同調した。ピエモンテ州はロンバルディア州の次に新型コロナの感染者が多い。

いうまでもなくレストランやカフェは人と人の接触が極めて多い。営業空間も濃密だ。また美容業界も客とスタッフが顔を寄せ合って作業が進む場所だ。

同時に美容室や理髪店では、待合室を含む屋内空間も狭いのが普通だから、感染の可能性が高まる。人懐っこい国民が多いイタリアではなおさらだ。それだけに営業再開がいつも慎重に議論される。

ふたつの業界はまた個人営業である場合が多い。そのため資本的な体力も弱いのが普通だ。閉鎖されている間の政府の支援などがあってもなくても、生き残るのは厳しい業界である。関係者が早期の営業再開を主張するのは当然といえる。

ロンバルディア、ピエモンテ両州の感染状況は、イタリア全体と同じように確実に改善に向かっている。それでも5月14日の新規感染者はロンバルディア州が522人、ピエモンテ州が151人と楽観できない数字になっている。

ちなみに5月14日現在の2つの州の感染者と死者の総計は、それぞれロンバルディア州が83820人、死者は15296人。ピエモンテ州が感染者29209人、死者は3493人である。

両州を合わせたは感染者の数は全国の50%強、死者のそれはほぼ60%。僕も住むここロンバルディア州一州のみの感染者と死者の数は、それぞれ約38%と49%にも達するのである。

そうした状況に鑑みてフォンターナ州知事は、政府が5月18日とした2業種の営業再開日を、一週間遅らせる、と決めたのだ。

その動きは、州都ミラノのジュゼッペ・サーラ市長が5月7日、多くの若者が繁華街に無防備に集まったことに激怒して、「街を再びを閉鎖することも辞さない」と宣言した強い危機意識に通じている。

繁華街のナヴィリオで起きた現象は、ミラノ市長の脅迫じみた宣言も功を奏して、その後ぴたりと収まった。そうしたエピソードが語るように、多様性を重視する結果、時としてエゴイストにさえ見える自己主張の強いイタリア国民の間にも、Covid-19への切迫感と連帯意識は強い。

ロンバルディア州と思いを同じくするピエモンテ州が、前者に倣ってレストランの再開を遅らせたのは理解できることだ。またヴェネト、エミリアロマーニャ、トスカーナなど感染者の多い他の北部各州も、ロンバルディアとピエモンテ両州と同じように経済活動の拙速な全面再開には慎重な姿勢だ。

それでもベニスが州都であるヴェネト州は、隣のフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州との間の人の往来を、政府の決めた期日を前倒しして再開すると決めた。そのようにイタリアでは中央政府の決定と地方のそれが違うことがよくある。それは双方が合意の上で起こる齟齬である。

イタリア共和国の政治の仕組みは、地方がまず在って、その地方の合意の上に中央政府が存在する、と考えればよく理解できる。各地方の独自性、言葉を変えれば全体の中での多様性が重視されるのが当たり前なのだ。

多様性が大きいと国家はまとまりに欠けるように見える。だがそこ には大きなプラス面もある。つまり多様性がもたらす精神の開放と、それに触発された人々の自由な発想の乱舞だ。誰もが自説を曲げずに独自の道を行こうと頑張る結果、イタリア共和国にはカラフルで多様な行動様式と、あっとおどろくような 独創的なアイデアが国中にあふれることになる。  

そして何よりも重要なポイントは、イタリア人の大多数が、「国家としてのまとまりや強力な権力機構を持つことよりも、各地方が多様な行動様式 と独創的なアイデアを持つことの方がこの国にとってははるかに重要だ」と考えている事実だ。要するに彼らは、「それぞれの意 見は一致しないし、また一致してはならない」という部分でみごとに意見が一致する。

多様性を尊重し重視しようとするイタリア国民の確かな哲学は、凄惨な新型コロナ危機を経ても無くなっていない。各州に代表される地方自治体が、中央政府や他の地方とは違う歩みを歩むことを恐れず、恐れるどころかむしろわが道を行く気概を強調しつつ、イタリアは独自のやり方で復興への道筋を見極めようとしている。


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