ベニスに戻ってきた観光客AFP400


欧州の多くの国、またEU加盟国のほとんどがロックダウンを解除し国境を開放した6月15日、イタリアのコロナ死亡者数は2月28日以来もっとも少ない26人を記録した。しかしその後は上昇をつづけ、6月18日には66人、19日には47人が亡くなった。

6月19日現在、イタリアの累計のコロナ死亡者は34561人。感染者の総数はアメリカ、ブラジル、ロシア、インド、イギリス、スペインに次いで世界第7位にまで後退したが、死者数はアメリカ、ブラジル、イギリスに続いて世界第4位。死亡率も高い。

死者数が多いのは、これまでに罹患した人々が亡くなり続けているからである。一日当たりの死亡者が919人にのぼった3月27日以降、日ごとの死者数は徐々に減ってきてはいるが、数字がゼロになるのはまだ先のことになりそうだ。

漸減傾向に変わりはないが、死亡者の数は24時間ごとに減ったり増えたりを繰り返してきた。一方、医療崩壊の象徴とも言われたICU(集中治療室)の患者数は、4月3日の4068人をピークに減り続け、6月19日現在は161人。患者数が前日より増えたのは6月18日のみである。

コロナとの闘いは全く終わっていないが、ICUに余裕ができ新規患者数も死亡者も減って、イタリアの医療の現場は平穏を取り戻しつつある。世界を震撼させた2月の感染爆発と医療崩壊への反省もあり、感染拡大の第2波、第3波への備えも怠りないように見える。

だがコロナで破壊されたイタリア経済の先行きは全くの暗闇だ。イタリアの過酷なロックダウンは-終盤には段階的に緩和されたものの-3ヶ月近くに及んだ。

その間の社会、文化、経済活動の破壊は凄まじいものだった。古くからの経済不振に加え、2010年の欧州ソブリン危機でイタリア経済はさらに落ち込んだ。EU圏内最大の借金約302兆円も抱えている。そこを新型コロナが襲った。

イタリアは一時世界最大のコロナ被害国となり経済が一層停滞した。イタリアでは新型コロナによる打撃によって企業の4割近くが倒産の危機に瀕しているとされる。中でも観光業や飲食業などの被害は甚大だ。

6月3日、イタリアはロックダウンをほぼ全面解除して国内外の移動を自由化。EU加盟国からの観光客やバカンス客も制限なしに受け入れている。ロックダウン期間中はほぼ動きがゼロだった観光業を促進するのが目的である。

イタリアのGDPの13%が観光業によっている。そして観光客の多くは外国人だ。コンテ政権はいま触れたように6月15日を待たずに国内外の観光客の移動を解禁した。が、外国人は言うまでもなくイタリア国内の動きも鈍い。

統計によると、イタリア人のほぼ半数がことしも夏のバカンスを計画している。しかし実際に宿泊先ほかの施設や移動・交通機関などの予約を入れているのは、たった5,5%に過ぎない。

最低でも一週間は滞在するのが当たり前のバカンスに、予約なしで出かける者はまずいない。従って「6月も残り少なくなった今も予約を入れていない」とは、ほぼバカンスに行かない、と言っているようなものだ。

またバカンスを考えている人々の92,3%はイタリア国内での遊興を希望していて、外国にまで足を伸ばす、と答えた者はわずか7,8%にとどまっている。

バカンスに出ない、と決めた約半数の国民のうちの25%は、ごく素直に新型コロナが怖いからと答えた。また16%の人々は、コロナの影響で収入が落ちて、とてもバカンスどころではないという。

イタリア国内における人々の心理的また経済的なあり方は、国によってバラつきはあるが生活水準がほぼ似通っている欧州全体のあり方、と言ってもそれほど乱暴な形容ではないだろう。

そうするとイタリアが国境を開いている国々の人口の半分が夏の旅を考えていて、そのうちの8%弱が外国を訪問しようとしている。そしてその8%弱は行き先別にさらに細かく分けられて、人数が少なくなる。

イタリア全体のホテルは、営業が全面解禁になった今もおよそ6割が営業をしていない。予約が入らないからである。また営業を再開したホテルも、今年の夏のビジネスはほぼ失われたと考えるところが多い。

それはバカンスに行きたい者のうちの5、5%しか予約を入れていない、という国内の統計や、恐らくそれと似たりよったりであろう、欧州全体の状況が如実に反映されたものではないか。

そしてそこに、もしも感染流行の第2波がやってくれば、観光産業においては夏のビジネスどころか、今年の営業収入は全てゼロ、ということにもなるだろう。イタリアの苦悩は少しも尽きるところがないのである。


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