
米大統領選でトランプ候補が敗北後に亡命するシナリオがある。
全国平均の世論調査では一貫してバイデン候補にリードされているトランプ候補は、激戦州に狙いを定めて活発なキャンペーンを張り、バイデン候補を追い上げているとされる。
それどころかオハイオ州などでは、逆転リードに入ったなどという報道も盛んに行き交っている。2016年の選挙と同じく、相手にリードを許しているとされるトランプ候補が当選する可能性は、依然として十分にある。
一方、戦いに敗れて「ただのヒト」になった場合には、トランプ大統領は逮捕、起訴、刑務所入りという憂き目を見るかもしれない。それを怖れて彼はロシアに亡命するのではないか、とも噂されている。見方によってはいかにもありそうなシナリオである。
彼は4年の在任中にさまざまな罪を犯した、と多くの批判者は考えている。例えば実の娘や娘婿を大統領補佐官や上級顧問の政府要職に登用したりした公私混同、あるいは権力の乱用。大統領の地位を使っての自らの事業への利益誘導。KKK、 プラウドボーイズ、ミリシア などの極右・狂信的集団への暴力行為の扇動など。
また大統領に就任する以前に犯した女性差別&性暴力、あるいは強姦。政治資金の流用。一貫しての巨額脱税。また国内の分断と騒乱を鼓舞し世界にヘイト、差別、暴力賛美などのトランプ主義を撒き散らした、人道に対する罪(Crime against humanity)などを指摘する者さえいる。
それらは全て疑惑の域を出ていない。疑惑は彼が大統領であることで、疑惑のままに留まって精査が避けられてきた。しかし、いったん彼が権力の座から引きずり下ろされた場合には、たちまち調査や分析や捜査が始まって、彼は窮地に陥るかもしれない。だから彼は亡命する、というのである。
僕が知る限り「トランプ亡命」のテーマを正面きって取り上げる大手メディアはない。だがSNSやエンターテインメント界またロシアなどのテレビでは盛んに取り上げられてきた題材だ。トランプ大統領自身も演説で「もしもバイデンに負けたらアメリカを去る」と半ば冗談めかして述べたことがある。
人は頭に浮かばない思念を口にしたりジョークにすることはない。考えたことのみがヒトの言葉になるのだ。そのことに鑑みれば彼は明らかに、少なくとも一度は「亡命」ということを考えてみたのである。考えから行動までの距離はさまざまだが、時として極端に近いこともある。
またトランプ候補が選挙に敗北した場合には、体の芯まで憎悪と差別と不寛容に染まった彼の支持者の「トランプ主義者」らが、敗北を認めずに暴動に走る可能性がある、とも危惧されている。そうした疑惑や怖れや憂慮を紡ぎ出した、というただそれだけでもトランプ大統領は厳しく指弾されて然るべきだ。なぜなら彼は超大国アメリカのれっきとした大統領だから。
トランプ亡命説よりもさらに現実味を帯びた不穏な噂もある。すなわちトランプ陣営が、郵便投票の不正を持ち出して敗北を認めずに訴訟に持ち込み、憲法の規定を都合よく利用して選挙の勝利を宣言する、という信じがたい成り行きだ。トランプ大統領が郵便投票は不正につながる危険がある、と根拠のない主張を繰り返したのは、そこへ向けての伏線だと多くの人が知っている。
トランプ大統領が再選されれば、アメリカの混迷と卑小化と醜悪化と衰退はさらに進行し、国内の分断と差別と偏向と格差が広がって、アメリカは再び立ち上がれなくなるほどの打撃をこうむるかもしれない。そうならないためにも彼が大差で負けて姑息な動きができないようになれば良い。
さらに良いのは、バイデン候補が地すべり的な勝利を収めてトランプ大統領が亡命することだ。そう願うのは最早憎しみでも政治的思惑でもない。世紀のエンターテイナーとしてのドナルド・トランプさんが繰り広げるドタバタ亡命劇を見てみたい、という野次馬根性からの思いである。