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12月9日、1982年のW杯イタリア優勝の立役者だったパオロ・ロッシが亡くなった。イタリアでは11月25日に逝ったマラドーナに重ねて彼の死を悼む人々も多い。

ロッシはすばらしいプレイヤーだった。人格的にも優れていた。引退後は特に穏やかに過ごし他者を慮る態度に終始して人々に慕われた。

ハチャメチャで破滅型でもあったマラドーナとは正反対の性格のようにも見えるが、彼らは他人の悪口を言わないと称えられたところも似ていた。

2人のプレイヤーの最大の共通点は、しかし、第12回と第13回のワールドカップのタイトルをほとんど1人でそれぞれの祖国、イタリアとアルゼンチンにもたらしたという点だ。

2人の共通点はただそこだけと言ってもあながち間違いではない。なぜならマラドーナはペレと並んで史上最強のプレイヤーと目される存在であり、ロッシは「多くの」名選手のひとりに過ぎない。

ロッシを名選手とは見なさない人々も多い。僕もその一人である。いやそれどころか、誤解を恐れずに言えば、僕はある意味ではロッシを平凡なプレーヤーだとさえ考える者だ。

ロッシはロッシ本人がかつて自らを規定したように「単独でディフェンスラインを突破するのではなく、前線のすぐ近くに動きを限定して、味方の助けを借りて得点する」タイプの選手である。

それは良く言えば、チームプレイを重んじる利己的ではないプレイヤーということである。また悪く言えば、ファンタジー(創造性)に欠けたオフサイドライン上の点取り屋、ということだ。

イタリアにはつい最近まで彼に似た、そして彼よりも力量が上の点取り屋がいた。現在セリエAベネヴェントの監督を務めるフィリッポ・インザーギである。

インザーギのイタリア1部リーグセリアAでの総得点は145、イタリア代表戦での得点は25。一方ロッシはセリアAでの総得点111、イタリア代表戦での得点は20だ。

ところが人気や評価の点では、ロッシはインザーギにはるかに勝る。それはひとえにロッシが1982年のワールドカップで大活躍をしたからである。

少し古くまた唐突な例だが、プロ野球の長島が、注目度の高い試合で大活躍をすることが多かったために、成績で勝る王よりも人気が高かったことにも似ている。

誤解のないように言っておきたい。ロッシもインザーギも疑いなくイタリアサッカー史上に残る名フォワードだ。が、ロッシはW杯で大活躍をしインザーギはそれほどでもない。それが2人の運命を分けていると思う。

さてここからは個人的な見解である。僕にとってはロッシもインザーギも魅力的な選手ではない。彼らはゲームを構築し演出しそして得点までするファンタジスタ(創造的フォワード)ではない。

オフサイドライン上にいて、相手の一瞬の隙を突いてゴール前に飛び出し、抜け目なくゴールを奪うタイプのストライカーである。

彼らは異様に鋭いゴールへの嗅覚を備えていて常に的確な場所にいる。こぼれ玉にも素早く反応し太ももや膝や踵はもちろん、いざとなれば肩や腰を使ってでも泥臭くボールを押し込む。

それは言うまでもなくひとつの大きな才能である。少年サッカーにおいてさえ、相手ゴール前の修羅場で自在に動いてボールをネットに押し込むのは至難の業だ。

ましてや相手は、世界でも最強と指摘されることが多いイタリアの守備陣形である。そこで一瞬の間にマーカーをかわし、相手の視野から消えてゴールを決めるのは天才的な力量だ。

それでも、彼ら以上に魅惑的なのが、マラドーナでありメッシでありバッジョでありデルピエロなど、などの、ファンタジスタ(創造的フォワード)なのである。

これはロッシを貶めるために言うのではない。彼はマラドーナと並んで、一つのワールドカップをほぼひとりで制したほどの優れたプレイヤーだ。

同時に、マラドーナとは違って点取り屋に徹しただけの、あるいは点取り屋に徹する以外には生きる術がない名選手だった、と言いたいのである。

合掌



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