イギリスが昨日(12月19日)までの新型コロナ対策を突然変更して、クリスマス期間中も厳しい移動規制をかけ続けると発表した。
感染力の強い変異したウイルウが発見されたからだ。
変異種のウイルスは、伝染力が従来の種より最大で70%以上強い可能性がある。一方で従来の種と比べて重症化率や致死率が高いという確証はない、ともされる。
20日から導入される厳しい規制では、不急不要の外出が禁止され、生活必需品を扱う店以外は全て営業停止となる。19日までは小売店や美容室などの営業は許されていた。
またイギリス政府はこれまで、12月23~27日のクリスマス休暇中は最大3世帯まで集うことを許可するとしていた。だが、これも覆して移動規制が強化された地域では集まりを禁止すると発表した。
僕はジョンソン政権の出し抜けな方向転換におどろいた。欧州各国がクリスマスから年末年始にかけて規制を強化する中、イギリスだけは逆に規制をゆるめるとしていたからだ。
その決定は異端者のジョンソン首相の意向に沿っていた。
政府方針に対してイギリスの医学会は、クリスマス前後の5日間に制限を緩和するのではなく、強化する必要があると指摘。政府は多くの命を犠牲にする過ちを犯そうとしている。制限強化を発表したドイツ、イタリア、オランダなどにならうべき、と強く警告をしていた。
野党やロンドンのカーン市長らも警告に賛同しジョンソン首相の翻意を求めていた。
激しい反対運動に対してジョンソン首相は、クリスマスの集いを禁止したり、違法化はしたくない。政府があらゆるケースを見越して法律を定めることはできない、などと主張して飽くまでも規制緩和にこだわった。
新型コロナの感染拡大阻止を目指す先進民主主義国の共通の悩みの一つは、厳しい移動規制やロックダウンを導入することで、人々の個人の自由を強く抑圧しなければならない現実である。
個人の自由は民主主義社会の最重要な構成概念の一つだ。ジョンソン首相は、ジレンマを押して個人の自由を抑圧する厳しい規制を打ち出す世界の指導者を尻目に、民主主義社会の根幹を成す要素を死守しようとしているようにも見える。
だが一方で、彼がパンデミックの始まりの頃にこだわった集団免疫の考えや、米トランプ大統領ばりの経済至上主義やコロナ軽視の自らの信条を秘匿して、個人の自由の守護神を装っているだけなのではないか、という疑惑も呼び起こさないではない。
国民に人気があると見えるジョンソン首相のコアな支持者は、つまるところトランプ大統領の岩盤支持者にも親和的な英国の保守層であり、反知性主義的心情も強いと考えられるBrexit賛成派である。
ジョンソン首相は彼らの親玉的存在だ。彼が打ち出す新型コロナ対策が時として異様に見えるのは、それらがトランプ大統領の施策にも似た色合いを帯びているからである。
彼はそれを嫌う欧州の良心に気づいている。だから往々にしてその生地を包隠しようとする。その態度が彼をさらに異様に見せる、というふうである。
そんなジョンソン首相が、頑なにこだわってきたクリスマスの規制緩和を撤回する気になったのは、引き金となった変異種のウイルスの正体が、あるいは見た目以上に険悪な性質のものであることを意味しているのかもしれない。
万が一そうであるなら、ウイルスは当のイギリスが世界に先駆けて国民に接種を行っている、新型コロナワクチンを無効にする能力を秘めている可能性もある。ある意味ではジョンソン首相の二枚舌や仮面性よりもはるかに怖い事態である。