前記事「殺すことしかできない私からの輿子田女子への手紙」では触れなかったが、ことしの復活祭(4月5日)の定番Capretto(子ヤギ)料理は、レストランからの出前だった。
復活祭は毎年日付が変わる移動祝日。2020年の復活祭は4月12日だった。その頃イタリアは世界最悪のコロナ地獄の真っただ中にいた。
当時は息をひそめるようにして日々を過ごしていた。Capretto(子ヤギ)料理はほぼ毎年親戚や友人に招かれて食べる。
だが厳しいロックダウン中で人の往来は禁止。招待もない。
スーパーなどの食材店は営業していたので、素材を買って自宅で料理することは可能だった。だがそんな気分にはなれなかった。
羊肉&ヤギ料理は難しい。何度か試みたが未だに満足できる仕上がりにならない。だからこそそれをうまく扱う親戚宅や友人宅での食事を楽しむ。
家で調理をする気が起きなかったのはそれだけではない。前例のないコロナ恐慌の中では、敢えて珍味を求める食欲も皆無だった。
そうやって僕は昨年、ほぼ30年ぶりにCapretto(子ヤギ)料理を食べない復活祭を過ごしたのだった。
およそ1年後の、昨今のイタリアは、相変わらず新型コロナに苦しめられている。ワクチン接種が始まって希望は見えているが、供給量が不足して普及が思うように進まない。
そのために人の動きが激しくなる復活祭期間中の4月3日から5日までは、昨年と同じように全土にロックダウンが敷かれると早くから決まっていた。
そこでわが家でも、前もって復活祭の名物料理をレストランに出前してもらおうと決めた。それもまた生まれてはじめての体験だった。
イタリアでは全土ロックダウンが始まった昨年から出前ビジネスが繁盛している。ロックダウンが解除されてもパンデミックは続き、飲食業は閉鎖や営業短縮を強いられている。
そんな中で出前だけはほぼ常に営業を許された。だから仕出しビジネスが拡大した。先日は出前の配達員を冷遇しているとして、ミラノの飲食業組合が告発された。
配達員はアフリカや中東からの移民が多い。飲食業界は移民の弱みにつけこんで彼らを搾取している、と批判されたのである。
出前によってレストランは潤い失業者が職を得る利点が生まれる。同時にほぼ決まって、欲に目がくらむ者が生み出す不都合も発生する。
アルバイトの大学生がわが家に届けてくれた出前は、梱包も中身も予想以上にちゃんとしたものだった。
肉のオーブン焼きには、北イタリアらしく、トウモロコシをすりつぶしたポレンタが添えられていた。
味は上の中というところ。いや、オーブン焼きであることを考慮に入れれば、最高級の部類の味と言ってもよかった。
僕の独断と偏見では、ヤギまた羊肉料理は煮込みにしたほうがまろやかで深い味になる。
だがイタリア語でumido(湿り気=煮込み)と通称されるヤギ及び羊肉の「煮物」は、わが家のあたりではあまり見られない。
炭火焼きやオーブン焼きがほとんどだ。
焼き物(=煮物ではない)、というハンディキャップを抱えてのヤギ料理としては、非常に得点が高いものだった。