菜園をたがやしてわかったことはたくさんあるが、作りやすい野菜と育てるのが難しい野菜がある、ということもそのひとつである。
そんなことはあたり前だと思っていたが、じつはそれはどこかで読んだり聞いたりしたことで、自分で本当に野菜の種の選択や芽の成長過程などにかかわってみないかぎり、具体的にはわからないものだと気づいた。
作りやすい野菜とは、僕の場合はおよそ次のようなことである。
種が早く、そして多く芽ぶく(つまりムダな種が少ない)。
萌えた芽の成長が早い。
水遣りや肥料がいらないか、最小限で済む。
病気になりにくい。
日照りや風や寒さに強い。など、など。
また地域によって異なる土質に適応しやすい。
土地の気候に順応しやすい。
などの人の力では変えられない条件に適合することも重要だろうが、そうした点はあまり気にかけなくてもいいようだ。
それというのも市販されている種子や苗は、種苗メーカーが長い間の経験で取捨していて、たとえば起源が南国の野菜でも寒い北イタリアで十分に育つ、など品種改良がなされている。
逆に作りにくい野菜とは、上記とは逆の性質を持つもののことである。
10年あまりにわたって野菜を作った中で、僕がもっとも作りやすいと思うのは、なんといってもラディッシュと春菊である。
どちらも種をまき散らしておけば確実に芽ぶき、成長も早い。水遣りも少なくて済む。また追肥もいらない。
ラディッシュは欧州で盛んに栽培される。
春菊はここにはないので日本から種を持ち込む。
ラディッシュはサラダで食べるのが主流だが、煮たり焼いたり漬物にしたりもできる。
僕はほぼ大根と同じとらえ方で扱い調理する。
冒頭の写真は収穫したばかりのラデッシュを葉とともに味噌をまぶして半日ほど漬け込んだもの。
イタリア人の友人らにも好評な一皿だ。
一方春菊は、自分で作ってはじめて生食できることを知った。新芽あるいは若芽を刈ってサラダにするのだ。
みずみずしく香りもまろやか。きわめて美味だ。
かつては僕にとって春菊とは、においのきつい、鍋に入れることが多い、個性の強烈な野菜のことだった。
が、菜園で栽培して初めて、新芽がにおいも味もたおやかで上品な野菜だと知った。
春菊の新芽のサラダを食べるのは、菜園をたがやす者の特権だとひとり合点しているが、実際はどうなのだろうか。
ラディッシュも春菊も、春浅い時期に種をまいてもよく芽ぶく。成長があきれるほどに早く、数週間から遅くても1ヵ月ほどで食べごろになる。
ラディッシュは一度収穫したらそれで終わりだが、春菊は切り取った茎からまた芽が出てくるので何度も収穫できる。
新芽を食べつづければ夏の間ずっと楽しめる。
春菊はサラダ以外に、野菜炒めに加えたり、豆腐と煮たり、白和えにしたりもする。
だがここイタリアで食べるかぎり、他のサラダ菜とまじえる生食がほとんどである。
その場合はわが家の鉄則で、オリーブ油と醤油だけで和える。