2020サッカー欧州選手権では、イタリアがイングランドとのPK戦を制して優勝した。
PK戦を偶然が支配するイベントと考える者がいる。それは間違いだ。
PK戦は通常戦と延長戦における2チームの拮抗を証明はするが、決して偶然を証明するものではない。
それどころかPK戦は、そこまでの120分間の戦いにも勝る、選手の体力と気力と技術の高さが求められる過酷な時間だ。
そして何よりも重要なのは、PK戦が神経戦そのものである事実だ。
技術も能力もある選手が往々にしてゴールを外すのは、心的プレッシャーが巨大だからだ。
イタリアの至宝ロベルト・バッジョが、1994年のW杯決勝のPK戦で、勝敗を分けるキックをはずしてワールドカップ優勝を逃したのも、プレッシャーが原因だ。
ほかにもPK戦にまつわるドラマは数多くある。
今回の欧州杯でも優勝候補の筆頭と目されていたフランスのエース、エムバペがトーナメント初戦のPK戦で痛恨の失敗をしてフランスが敗退した。
PK戦はサッカーのルール内にある非情な戦いだ。
各チームと選手は、普段からPK戦を想定して訓練をしておかなければならない。
当たり前の話だが、PK戦は90分の通常戦や延長戦と同様に勝つこともあれば負けることもある。
PK戦が偶然に絡めとられているならば、通常戦や延長戦も偶然が支配している時間ということになる。
むろんそんなことはあり得ない。
PK戦は90分の通常戦や延長戦と全く同格のサッカーの重要な構成要素だ。偶然が支配する余地などないのである。
イタリアは今大会は、準決勝も決勝もPK戦までもつれ込んでの勝利だった。
PKを実行する5人の選手にとっては、ほとんど残酷でさえある精神的重圧に耐えてゴールを決めるのは、通常ゲーム中のプレーにさえ勝る重要堅固なパフォーマンスだ。
PK戦にもつれ込もうが90分で終わろうが、勝者は勝者で敗者は敗者である。
現実にもそう決着がつき、また歴史にもそう刻印されて、記録され、記憶されていく。
試合を観戦する者は、PK戦を嘆くのではなく、120分の熾烈な競技に加えて、PK戦まで見られる幸運をむしろ喜ぶべきなのである。