山火事キプロス650

イタリアは文字通り燃えるほどの猛暑に見舞われている。

南部のシチリア島では811日、欧州の最高気温となる48,8℃を記録した。それまでの欧州記録は1977年ギリシャのアテネで観測された48℃。

なお、1999年に今回と同じシチリア島で48,5℃が観測されたが、それは公式の記録としては認められていない。

欧州とは思えないほどの熱波はアフリカのサハラ砂漠由来のもの。広大な砂漠の炎熱は、ヒマラヤ山脈由来の大気が日本に梅雨をもたらすように、地中海を超えてイタリアに流れ込み気象に大きな影響を及ぼす。よく知られているのは「シロッコ」。

熱風シロッコはイタリア半島に吹き付けて様々な障害を引き起こすが、最も深刻なのは水の都ベニスへの影響シロッコは秋から春にかけてベニスの海の潮を巻き上げて押し寄せ、街を水浸しにする。ベニス水没の原因の一つは実はシロッコなのである。

48,8℃を記録した今回の異様な気象は、アフリカ起源の炎熱もさることながら地球温暖化の影響が大きいと見られている。

シチリア島では熱波と空気乾燥で広範囲に山火事が起きた。

シチリア島に近いイタリア本土最南端のカラブリア州と、ティレニア海に浮かぶサルデーニャ島でも山林火災が発生し緊急事態になっている。

同じ原因での大規模火災は、ギリシャやキプロス島など、地中海のいたるところでも連続して起きている。

熱波と乾燥と山火事がセットになった「異様な夏」は、もはや異様とは呼べないほど“普通”になりつつあるが、山火事に関してはイタリア特有の鬱陶しい現実もある。

経済的に貧しい南部地域に巣くうマフィアやンドランゲッタなどの犯罪組織が、人々を脅したり土地を盗んだりするために、わざと山に火を点けるケースも多々あると見られているのだ。

イタリアは天災に加えて、いつもながらの人災も猖獗して相変わらず騒々しい。

偶然だが、ことし6月から7月初めにかけての2週間、いま山火事に苦しんでいるカラブリア州に滞在した。

その頃も既に暑く、昼食後はビーチに出るのが億劫なほどに気温が上がった。

夕方6時頃になってようやく空気が少し落ち着くというふうだった。

それでもビーチの砂は燃えるほどに熱く、裸足では歩けなかった。

人々の話では普段よりもずと暑い初夏ということだった。今から思うとあの暑さが現在の高温と山火事の前兆だったようだ。

北イタリアの僕の菜園でもずっと前から異変は起きていた。

4月初めに種をまいたチンゲン菜とサントー白菜が芽吹いたのはいいが、あっという間に成長して花が咲いた。

花を咲かせつつ茎や葉が大きくなる、と形容したいほどの速さだった。

チンゲン菜もサントー白菜も収穫できないままに熟成しきって、結局食べることができなかった。

温暖化が進む巷では、気温が上昇する一方で冷夏や極端に寒い冬もあったりして、困惑することも多い。

だが菜園では野菜たちが異様に早い速度で大きくなったり、花を咲かせて枯れたり、逆に長く生き続けるものがあったりと、気温上昇が原因と見られる現象が間断なく起きている。

自然は、そして野菜たちは、確実に上がり続けている平均気温を「明確」に感じているようだ。

だがいかなる法則が彼らの成長パターンを支配しているかは、僕には今のところは全くわからない。

今回のイタリアの酷暑は、バカンスが最高に盛り上がる8月15日のフェラゴスト(聖母被昇天祭)まで続き、その後は徐々にゆるむというのが気象予報だ。

だがいうまでもなくそれは、温暖化の終焉を意味しない。

それどころか、暑さはぶり返して居座り、気温の高い秋をもたらす可能性も大いにありそうである。




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