ドイツの総選挙は事前の予測通り社会民主党の僅差の勝利で終わった。
第一党となった社会民主党(SPD)の得票率は25,7%。過半数にはほど遠いので、当然連立を模索することになる。
引退すると表明しているメルケル首相所属のキリスト教民主同盟(CDU)+キリスト教社会同盟(CSU)は24.1%。前回選挙のおよそ33%から大きく後退した。
順当に行けば、議会第1党 のショルツ党首がメルケル首相の後を継いでドイツ宰相になる。
しかし、事態はそう単純ではなく、連立の枠組みによってはキリスト教民主同盟のラシェット党首が首相になる可能性もある。
そればかりではなく、14.8%と過去最高の得票率を得た緑の党のベアボック共同党首が、首班になる可能性もゼロではない。
それらの人々のうちの誰がドイツ首相になっても、ほぼ自動的にEU(欧州連合)の事実上のリーダーになる、と主張する人々がいる。
アンゲラ・メルケル首相がそうであったように、と。
バカを言ってはいけない。
EUの国々は、国力つまり経済力の違いはあるものの、ほとんどが自由と民主主義と人権擁護を国是にする開明的な政体だ。
誰もが対等な存在なのだ。
メルケル首相に率いられたドイツが、近年圧倒的な指導力と影響力を発揮し尊敬と親しみを集め続けたのは、当のメルケル首相自身のカリスマ性ゆえだ。
ドイツはEU第一の経済大国である。黙っていても存在感はゆるぎがない。
しかし、そのことはEU加盟国の誰もが自動的にドイツにひれ伏すことを意味しない。
今この時は、アンゲラ・メルケルの存在の大きさに圧倒されて、ひどく卑小に見える将来のドイツの指導者たちは、彼らがEUをも導くほどの甲斐性の持ち主であることを証明しなければならない。
証明までの過程はおそらく、長期化が予想される連立協議の中での、人物も思想も力量も人格も、全てひっくるめてのバトルになるだろう。
ポスト・メルケルのEUの発展のためにも、ぜひそうであってほしい。