白鵬が引退した。
僕はそのニュースをなんとイタリアの高級紙corriere della sera紙上で知った。
corriere della sera紙が大相撲を語ることはほどんどない。ましてや一力士の引退報告なんて奇跡に近い。
その奇跡に近いニュースを、僕はこれまためったにない状況で目にした。普通なら大相撲のニュースはNHKの衛星放送で知るが、その日はたまたまテレビを観なかった。
そのおかげで白鵬引退の第一報をイタリア語で目にするという珍しい体験をしたのである。
さて、
以上のような書き方をしたのは、白鵬という力士がここイタリアの新聞さえ話題にするような重要な存在、ということを言いたかったのである。
たとえばイギリスやアメリカのメディアは、よりグローバルな意識が強いから、大相撲史上最強と考えられる白鵬の引退をニュースにしても僕はそれほど驚かない。
現にイギリスのBBCはきっちりとニュースにしている⇒
https://www.bbc.com/news/world-asia-58705596
白鵬は言うまでもなく偉大な力士である。
同時に残念な力士でもある。
彼の引退を伝えるcorriere della sera紙もBBCも言及していないが、戦跡の巨大に比べて白鵬の所作や言行は寂しい。
白鵬は横綱になり、優勝回数が重なるごとに寂しい力士になっていった印象がある。
世間ではそれを思い上がりと形容するのだろう。僕もそう思うが、もっと踏み込んで白鵬の持って生まれた性質、と言いたい気持ちさえある。
白鵬のあまり気高いとは言えない行状や発言や物腰については、僕はそこかしこで書いたり言ったりしてきた。
彼は決して悪い人間ではないと思うが、性質が軽佻で横綱の地位にふさわしい心根をついに獲得できなかった、というふうに見えるのだ。
彼は相撲好きな人々の眉をひそませるような行為や発言を繰り返したが、ことしの名古屋場所では決定的とも見えるなミスを犯した。
14日目の正代戦で、会場が呆気に取られた奇怪な立ち合いを見せた後、今度は観客が大きくどよめくほどの殴り合いを演じた。
「殴り合い」というのは言葉のあやで、白鵬は暴力そのものでしかない張り手を一方的に正代に浴びせ続けた。
NHK解説者の北の富士さんが「正気の沙汰とは思えない」と表現した醜いパフォーマンスは、彼の思惑通り対戦相手の正代をたじろがせて白鵬は勝利を収めた。
それは彼の長いキャリアと44回もの優勝をひと息に汚してしまうほどの見苦しい取り組みだった。
ところが白鵬の異様な戦法は翌日も続いた。
照ノ富士戦で再び殴打じみた張り手を連発したのだ。卑怯というよりも醜悪というほうがふさわしい手法で、白鵬はそれによって勢いに乗る照ノ富士も下した。
結果、白鵬は45回目の優勝を全勝で飾った。
だが彼のその優勝を喜ぶ者は、熱烈なファンでもない限りほとんどいなかったのではないか。
大横綱であるはずの白鵬は、残念ながら晩節を汚したままで引退することになった。
今後は相撲協会に残って部屋を興す予定のようだが、「終わり良ければ全て良し」とはならなかった彼の未来は果たしてどうなるのだろうか。
モンゴル出身の横綱は朝青龍、日馬富士、そして白鵬と問題児ばかりだ。人品の良い鶴竜もいるが、彼は引き技ばっかりの弱い横綱だったから、印象に残らない。
モンゴル出身の新横綱、照ノ富士の行く末まで気になってきた。
白鵬は相撲協会で後進の指導に当たるのであれば、朝青龍、日馬富士の名折れと自身の不徳を挽回するためにも、ぜひ横綱のあるべき姿を一から勉強し直してから行動を起こしてほしい。