イタリアは2022年W杯出場権を逃したかもしれない。
W杯欧州予選グループCでスイスに首位を奪われて、激烈な「仁義なき戦い」が繰り広げられるに違いないプレーオフに回ったからだ。
しかもそこでは強豪国のポルトガルと激突する可能性が高い。
プレーオフ決勝戦で敗れれば、イタリアは2018年に続いて2大会連続でワールドカップから締め出されることになる。
イタリアは2006年にW杯を制して以降、深刻な不振に陥り、2018年にはW杯ロシア大会への出場権さえ逃した。
だが同じ年にロベルト・マンチーニ監督が満を持して就任。再生へ向けての治療が開始された。
治療は成功してイタリアは回復。2021年7月には53年ぶりに欧州選手権を制した。
イタリアの長い低迷の最大の原因は、違いを演出できるファンタジスタ(ファンタジーに富む創造的なフォーワード)がいないからだ、と僕はずっと考えそう主張してきた。
だがマンチーニ監督は、ファンタジスタが存在しないイタリア代表チームを率いて、見事に欧州選手権で優勝した。
彼はそれによって、傑出した選手がいないイタリアチームも強いことを証明し、彼自身に付いて回っていた「国際試合に弱い監督」という汚名も晴らした。
僕も彼の手腕に魅了された。
マンチーニ監督がいる限り、再生したイタリア代表チームの好調はしばらく持続する。欧州選手権に続くビッグイベント、2022W杯でも活躍し優勝さえ視野に入ったと考えた。
ところが早くも障害にぶつかった。楽々と予選を突破をすると見られた戦いで引き分けを繰り返し、ついにはプレーオフに追い込まれた。
しかも運の悪いことにそこには、前回の欧州選手権を制したポルトガルも同グループにいる。順当に行けばイタリアとポルトガルは、一つの出場枠を巡って争う。
イタリアは欧州選手権で優勝した後、軽い燃え尽き症候群に陥っている。そのことが影響してCグループでスイスの後塵を拝したと見ることもできる。
プレーオフで強豪のポルトガルが立ちはだかるのは想定外だが、障害を克服した暁にはイタリアは「逆境に強い伝統」を発揮してW杯で大暴れするかもしれない。
いや、きっと大暴れする、と言えば明らかなポジショントークだが、客観的に見てもその可能性は高そうだ。
だが強いポルトガルには世界最強のプレーヤーのひとりであるロナウドがいる。ロナウドはひとりで試合をひっくり返す能力さえある怖い存在だ。
イタリアと対峙するときのロナウドは、さらに怖さを増すことが予想される。
それというのも彼は、3年間所属したイタリアのユヴェントスからお払い箱同然の扱いでトレードに出された。アッレグリ新監督の意向だった。
過去の実績を頼りに自信過剰になったアッレグリ監督は、ロナウドはその他大勢のユヴェントス選手となんら変わるところはない。全て私の指示に従ってもらう、という趣旨の発言をした。
「ユヴェントスを勝利に導くのは、一選手に過ぎないロナウドではなく優れた監督であるこの私だ」という思い上がりがぷんぷん匂う空気を察したロナウドは、静かにユヴェントスを去った。
そうやって英国プレミアリーグに復帰したロナウドは、早速9月の月間MVPに選ばれるなど衰えない力を見せつけている。
一方、ロナウドのいないユヴェントスを率いるアッレグリ監督は絶不調。間もなく解任されそうな体たらくだ。
ロナウドはアッレグリ監督への恨みつらみはほとんど口にしていない。だが、いつもよりも激しい闘志を燃やしてイタリア戦に臨みそうだ。だから怖い。
それでもイタリアがロナウドのポルトガルを退けてW杯本戦に乗り込んんだ場合には、イタリアのほうこそ怖い存在になるだろう。
そしてその後、W杯本戦をイタリアが強いのか弱いのか分からないじれったい調子で勝ち進むなら、イタリアの5度目のW杯制覇も夢ではなくなる。
イタリアはヨタヨタとよろめきながら勝ち進むときに真の強さを発揮する。
それが魅力の、実に不思議なチームなのである。