12月8日はイタリアの祝日だった。
聖母マリアが生まれながらにして原罪から解放されていたことを祝う、「無原罪の御宿り(Immacolata Concezione)」の日である。
イタリア中がこの日を境にクリスマスモードに入る、とよく言われる。
ことしはコロナの毒の勢いがワクチンによって抑えられていることもあって、クリスマスの祝祭が盛り上がりそうだ。
むろん限界がある。
ワクチン忌諱者がいるために社会全体の自由が狭められているからだ。
欧州第4波の恐怖におののいているドイツに代表されるEU各国は、ワクチンを接種しない住民をロックダウンしたオーストリアに続いて、反ワクチン派の国民への締め付けを強化しようとしている。
第4波の痛みが今のところはまだ軽いイタリアも、じわじわと増えるコロナ感染者数をにらんで、ワクチン接種の義務化を含めた反ワクチン派の人々への干渉をしきりに考慮している。
不穏な空気の中、ミラノ・スカラ座は例年通り12月7日に開演した。
スカラ座の初日が12月7日と定まったのは1951年である。元々は12月26日が初日と定められていて、それは1939年まで140年間同じだった。
12月7日と決められたのは、その日が街の守護聖人「聖アンブロージョの祝日」だから。
ミラノのクリスマスシーズンは、「聖アンブロージョの日」を境に始まる。「無原罪の御宿り」を契機とするイタリア全国よりも1日早いのである。
昨年はコロナ禍でスカラ座も閉鎖された。
ことしはやはりワクチン様様で公演が可能になり、およそ40万円の特等席を含む全てのチケットが、11月26日に販売開始から数時間で売り切れた。
オープニングにはマタレッラ大統領も出席した。
大統領は来年2月に退任する。それを惜しんで劇場では「マタレッラ2期目を!」コールが湧き起こった。
そうした世の中の動きを追いかけつつ、僕は菜園でまた少し仕事をした。
ここのところ野菜尽き菜園づくめになっている。
温暖化のせいらしい野菜たちの変化が気になるのである。
ひと言でいえば、12月に入っても夏野菜の幾種類かが収穫できていることへのおどろきと、喜びと、そして不審。
たとえば12月7日。
スカラ座初日のニュースに気を取られたわけではないが、翌12月8日が大雪になるというニュースを見逃した。
夜になって予報を知ったが、時すでに遅し。ミックスサラダ菜などの夏野菜は朝までには雪で全てダメになるだろうと観念した。
明けて12月8日。
朝5時に起きて書斎兼仕事場から暗いぶどう園を見渡したが、雪が積もっている様子はない。
まだ降り出さないのである。
8時前、どんより曇った空がようやく少し明るくなった。急ぎ菜園に行きミックスサラダ菜ほかの野菜を全て刈り取った。
その後でこれから成長する白菜や大根に雪除けの網をかぶせた。
その際、虫食いの激しい白菜3株も引き抜いた。食害の犯人はヨトウムシとカタツムリが多い。
結球しかけている玉を割ってそれを確認し、退治法を考えようと思った。
空気は冷えて雪の前兆が明白に漂っていたが、作業を全て終わるまで雪は落ちてこなかった。
結局、雪は夕方になって少し降っただけだった。しかもすぐに雨に変わり、雪は溶けて跡形も無くなった。
北イタリアはあちこちでドカ雪になったが、僕の住む一帯はほとんど降雪がなかった。
あわてて野菜を収穫したことを悔いたがもう後の祭り。
無理して収穫した野菜たちの量は今回もまた多い。
できるだけサラダで食べるが、食べきれないときは他の食材と炒めたり、茹でて保存に回したりと、店で買い求めた野菜なら決してやらない余計な仕事を、自分に課す羽目になった。