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フランスのマクロン大統領が、国内にいる500万人余りの反ワクチン派の市民に向かって、「くそくらえ」という強い言葉を使って怒りを投げつけた。

大統領にもあるまじき言葉遣い、として驚く人、呆れる人、怒る人、批判する人が続出した。

同時に拍手喝采する人、も多くいた。申し訳ないが僕もそのうちのひとりである。

とても笑ったのは、普段は政敵や反対者や弱者を口汚くののしるのが得意な極右の政治家が、「大統領はそんなことを言うべきではない」と善人面で発言したこと。

さらに「下卑た表現をする彼は職責に値しない」 とまるで自身が聖人でもあるかのように続けた。恥知らずなコメントだ。

「くそくらえ」という言葉は自らが言う分には構わないが、マクロン大統領が言ってはならない、ということらしい。

フランス大統領ともあろう者が、公の場で「くそくらえ」などという表現をするのはむろん好ましくはない。

言葉使いに細心の注意を払うのも一国のリーダーたる者の心得だ。

だが、彼は敢えて強い言葉を使って注意を喚起しようとした、とも取れる。

コロナパンデミックで危機に陥っている世の中が、ワクチンの接種を拒む愚者の群れに圧されて、さらに崖っぷちに追い込まれている。

マクロン大統領はそのことを踏まえて、反ワクチン派の国民に心を入れ替えて接種しろ、と忠告しただけかもしれない。

だが一方では、もっと違う意味も込めたのかもしれない。

反ワクチン族は欧米の極右勢力と親和的であることが明らかになっている。

つまりトランプ主義者やフランスの国民連合やドイツのための選択肢、ここイタリアの同盟とイタリアの同胞などが彼らの味方である。

それらの政治勢力は、将来政権を担うようなことがあれば、ファシズムやナチズムに走りかねない危険を秘めている。

トランプ政権を見れば明らかだ。選挙に負けたトランプさんの支持者が、民主主義の牙城であるキャピトルヒルに乱入した事件などは、その危険の顕現だ。

マクロン大統領は、退陣したメルケル首相やバイデン大統領またここイタリアのドラギ首相などとともに、それらの右派勢力に対抗するグローバルな力である。

「くそくらえ」などという言葉を安易に口に出す軽さは少しいただけないかもしれないが、フランスがマリー・ルペン氏やエリック・ゼムール氏 に率いられる悪夢を阻止するためには、ぜひとも必要な人材だ。

彼はまた、足元がおぼつかないバイデン大統領に代わって、トランプさんがアメリカを再び支配するかもしれない阿鼻叫喚の暁には、彼に対抗できるほどんど唯一の担保でもある。

なにしろメルケルさんがいなくなったドイツの舵を取るショルツ首相が、どれほどの力のある政治家かどうかまだ全く分からないのだから。

「くそくらえ」という言葉が、マクロン大統領のエリート意識、あるいは体制側の思い上がりから出た不用意な失言ではなく、反ワクチン族への明確な対抗意識に基づく確信犯的な発言だと信じたい。

もし彼がそれを確信犯的に公言したのであれば、それは反ワクチン頑民への単なる警告ではなく、ことし4月の仏大統領選を見据えての極右候補への宣戦布告、と取れなくもないのである。

ほんの少し深読みをすれば、の話だけれど。



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