
1月24日に始まったイタリア大統領選挙は、4日目の27日も埒が明かないまま終わった。
選挙は上下両院議員と終身議員、また各州代表あわせて1009人の無記名投票によって行われる。
投票は一日に2回づつ実施されるのが慣例だが、今回はコロナ感染対策の意味合いから、一日1回のみの投票と改められた。
1回目から3回目までの投票では3分の2以上の得票が必要だが、4回目以降は過半数の得票があれば当選となる。
多くの政党が乱立するイタリア議会では、党派を超えた幅広い支持がない限り大統領に選ばれるのは不可能だ。
そこで各党は選出作業を続けながら間断なく話し合いを続け、権謀術数を巡らし、やがて妥協に持ち込んでいく。
投票は無記名で行われる。前もって立候補者を募って投票する通常選挙の形式ではないため、各党間の合意がない間は無効票の白票や棄権票も多い。
戦後の12回の選挙では、第1回目の投票で選出されたケースは2度しかない。10回以上投票を繰り返したことも多く、1971年の選挙では23回目の投票でようやく決まった。
今回も先が読めない選挙戦が展開されている。3日目の投票では、続投を辞退しているマタレッラ大統領に120票余りが集まった。
また依然として、ドラギ首相を大統領に横滑りさせようと画策する勢力も暗躍している。
マタレッラ大統領が翻意せず、有力な候補者も現れない場合には、ドラギ首相を大統領に押す流れが強くなる可能性が高い。
ドラギ首相自身は大統領職への転進を否定していない。むしろ意欲的であるように見える。
国会議員ではない彼は、2023年6月に議会任期が終わって総選挙が行われる際、政権の終焉とともに政局の中心から弾き出されることが確実だ。
だがいま大統領に転進すれば、少なくともこの先7年間は国家元首として影響力を行使することができる。
ドラギ首相は昨年末、「誰が首相になっても仕事ができる環境は整えた」と発言した。
その言葉は、彼が大統領への転進を示唆したものと各方面に受け止められている。
だが広範な政党の支持を集めているいるドラギ首相が退任すれば、イタリアはたちまちいつもの政治危機に陥るだろう。
そして次の政権が話し合いで成立しない場合は総選挙に突入し、極右の同盟とイタリアの同胞が主導するポピュリスト政権が成立する可能性が高い。
その政権の正体は、反EUの排外差別主義者である。彼らはBrexitに倣ってEUからの離脱さえ模索するだろう。
そんな悪夢を阻止するためにも、もうしばらくはドラギ政権が存続したほうがイタリアのためにも、欧州のためにも、従って世界のためにも望ましい。