Draghi650


プーチン・ロシアによるウクライナへの蛮行は止む気配がない。

欧州で発生した戦争という信じがたい事態に、人々は怒り悲しみ嘆いている。

各国の政治指導者も、ほとんどが強い言葉でプーチン大統領の独善と残虐性を指弾している。

同時に停戦を目指して、プーチン大統領と対話し説得し、仲介を試みる動きも活発だ。

中でもフランスのマクロン大統領は、対話は功を奏していないという批判もある中、プーチン大統領との会談を繰り返して和平を模索している。

一方イギリスのジョンソン首相やEUのフォンデアライエン委員長、またポーランドやバルト3国の首脳など、多くの政治家がウクライナを訪問し、トルコほかの首脳もプーチン大統領との接触を間断なく続けている。

そんな折、プーチン大統領と会談したイタリアのマリオ・ドラギ首相が、EU主要国の首脳としては異例の発言をした。

ドラギ首相は「プーチン大統領と話すのは時間のムダ」と言い放ったのだ。

ドラギ首相はプーチン大統領に、「ウクライナのゼレンスキー大統領と一刻も早く面談し、停戦を模索するべき」と促したが、プーチン大統領は「今じゃない」と繰り返すだけだった。

ドラギ首相はまた、「プーチン大統領の目標は今のところ平和の追求ではない。ウクライナの抵抗勢力を全滅させ、国土を占領し、親ロシア政権を作ってウクライナを操ることだ」とも説明した。

イタリアはG7の構成国だが、国際政治の場では日本と同様の弱小国だ。ほとんどの何の影響力も持たない。

ところがドラギ首相は、欧州中央銀行総裁として辣腕を振るった経歴がものをいって、欧州はもちろん世界的にも一目置かれている存在だ。

だからこそプーチン大統領も、危機のさなかでドラギ首相との会談に応じた。

ドラギ首相が説明した、プーチン大統領の目標の中身は目新しいものではない。

しかし、「ロシアのボスとの対話は時間のムダ」と一刀両断に切り捨てた彼の言葉は重い。

ロシアは中国と並んで伝統的にイタリアと親しい。しかしながらドラギ首相は、「中国もロシアも専制国家」と公言してはばからない。

歯に衣着せぬ発言が彼の持ち味だ。

ドラギ首相の辛らつな発言をなぞるような出来事も起こっている。

イギリスのジョンソン首相が「プーチン大統領との協議は、ワニに足をかまれたまま対話するようなものだ」とドラギ首相の発言に追随したのだ。

また主要20か国の財務相・中央銀行総裁が集まるG20会議では、米英カナダの代表団が、ロシアの発言時に退席するというあからさまな動きに出た。

各国が協調し団結するのが目的の世界会議場で、ロシアへの抗議を優先させた3国の異例の行動も、ドラギ首相の率直な発言に触発されたのかもしれない。

しかしながらドラギ首相の言葉も、それをなぞったように見えるあれこれの動きも、どちらかと言えば和平には資さない。

少しでも和平に貢献する可能性があるのは、ドラギ首相の単純明快な発言ではなく、対話を続けようとするマクロン大統領のねばり腰である。

そうはいうものの、しかし、ガツンと一発かましたドラギ首相の正直もクライナ危機の実相を捉えている。それはそれで気に留めておくべき、と思う。

誰もが彼と同じ態度に出れば、戦線の拡大から世界戦へと、悪夢が現実化して行かないとも限らない。





facebook:masanorinakasone