ことしは、6月または9月に、コロナ騒動で中断していた地中海行を復活させる計画である。
日本語のイメージにある地中海は、西のイベリア半島から東のトルコ・アナトリア半島を経て南のアフリカ大陸に囲まれた、中央にイタリア半島とバルカン半島南端のギリシャが突き出ている海、とでも説明できるだろうか。
日本語ではひとくちに「地中海」と言って済ませることも多い広い海は、実は場所によって呼び名の違う幾つかの海域から成り立っている。
イタリア半島から見ると、地中海には西にバレアス海とアルボラン海があり、さらにリグリア海がある。東にはアドリア海があって、それは南のイオニア海へと伸びていく。
イタリア半島南端とギリシャの間のイオニア海は、ギリシャ本土を隔てて東のエーゲ海と合流し、トルコのマルマラ海にまで連なる。
それら全てを合わせた広大な海は、ジブラルタル海峡を経て大西洋と合流する。
地中海の日差しは、北のリグリア海やアドリア海でも既に白くきらめき、目に痛いくらいにまぶしい。
白い陽光は海原を南下するほどにいよいよ輝きを増し、乾ききって美しくなり、ギリシャの島々がちりばめられたエーゲ海で頂点に達する。
エーゲ海を起点に西に動くとギリシャ半島があり、イオニア海を経てイタリア半島に至る。
イタリア半島の西にはティレニア海がある。そこにはイタリア随一のリゾート地、サルデーニャ島が浮かんでいる。
サルデーニャ島は、一級の上に超が付くほどのすばらしいバカンス地である。
太陽はきらめき、地中海独特の乾いた環境が肌に心地よい。
エーゲ海の島々の空気感は、サルデーニャ島よりもさらに乾いて白いきらめきに満ちている。地中海では西よりも東の方が気温が高く、空気ももっと乾燥している。
そして多くの島々を浮かべたエーゲ海は、サルデーニャ島を抱くティレニア海よりも東にある。
清涼感に富む光がよりまぶしく、目に映るものの全てを白色に染めて輝くように見えるのは、そこが地中海の中でも南の、且つ東方に位置している碧海だからだ。
夏のエーゲ海の乾いた島々の上には、雲ひとつ浮かばない高い真っ青な空がある。
雨はほとんど降らず、来る日も来る日も抜けるような青空が広がっている。
エーゲ海の砂浜に横たわって真っ青な空を見上げていると、ときおり白い線が一閃する。
目を凝らして追いかけると、白光は強い風に乗って飛ぶカモメの軌跡だったのだと気づく。
空気が乾いて透明だから、白が単なる白ではなく、鮮烈に輝く白光というふうに見えるのである。
コロナパンデミックの闇に慣れた目には、ことしのエーゲ海の光は一段と輝いて見えるに違いない。
すると空の青を裂いて飛ぶカモメの白い軌跡は、いったいどのような光彩となって目を射るのだろうか。
目もくらみそうなまぶしい想像に、心躍る思いを禁じえない。