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極右と規定されることも多い右派「イタリアの同胞」のジョルジャ・メローニ党首が、イタリア初の女性首相となって1週間が経過した。

連立政権とはいえ、ついに極右政党が政権を握る事態に欧州は驚愕した、と言いたいところだが現実は違う。欧州は警戒心を強めながらもイタリアの状況を静観してきた、というのが真実だ。

メローニ政権は、少しの反抗を繰り返しながらも、基本的にはEU(欧州連合)と協調路線を取ると見るのが現実的だ。

近年、欧州には極右政党が多く台頭した。それは米トランプ政権や英国のBrexitEU離脱)勢力などに通底した潮流である。

フランスの「国民連合」、イタリアの「同盟」と「イタリアの同胞」、スペインの「VOX」ほかの極右勢力が躍進して、EUは強い懸念を抱き続けてきた。

2017年には極右興隆の連鎖は、ついにドイツにまで及んだ。極右の「ドイツのための選択肢」が総選挙で躍進して、初めての国政進出ながら94議席もの勢力になった。

それはEUを最も不安にした。ナチズムの亡霊を徹底封印してきたドイツには、極右の隆盛はあり得ないと考えられてきたからだ。

それらの極右勢力は、決まって反EU主義を旗印にしている。EUの危機感は日増しに募った。

そしてとうとう2018年、極右の同盟と極左の五つ星運動の連立政権がイタリアに誕生した。

ポピュリストの両党はいずれも強いEU懐疑派である。英国のBrexit騒動に揺れるEUに過去最大級の激震が走った。

だが極右と極左が野合した政権は、反EU的な政策を掲げつつもEUからの離脱はおろか、決定的な反目を招く動きにも出なかった。

イタリアでは政治制度として、対抗権力のバランスが最優先され憲法で保障されている。そのため権力が一箇所に集中しない、あるいはしにくい。

その制度は、かつてファシスト党とムッソリーニに権力が集中した苦しい体験から導き出されたものである。同時にそれは次々に政治混乱をもたらす仕組みでもある。

一方で、たとえ極左や極右が政権を担っても、彼らの思惑通りには事が運ばれない、という効果も生む。

過激勢力が一党で過半数を握れば危険だが、イタリアではそれはほとんど起こりえない。再び政治制度が単独政党の突出を抑える力を持つからだ。

イタリアが過激論者に乗っ取られにくいのは、いま触れた政治制度そのものの効用のほかに、イタリア社会がかつての都市国家メンタリティーを強く残しながら存在しているのも大きな理由の一つだ。

イタリアが統一国家となったのは今からおよそ160年前のことに過ぎない。

それまでは海にへだてられたサルデーニャ島とシチリア島は言 うまでもなく、半島の各地域が細かく分断されて、それぞれが共和国や公国や王国や自由都市などの独立国家として勝手に存在を主張していた。

国土面積が日本よりも少し小さいこの国の中には、周知のようにバチカン市国とサンマリノ共和国という2つのれっきとした独立国家があり、形だけの独立国セボルガ公国等もある。

だが、実際のところはそれ以外の街や地域もほぼ似たようなものである。

ミラノはミラノ、ヴェネツィアはヴェネツィア、フィレンツェはフィレンツェ、ナポリはナポリ、シチリアはシチリア…と各地はそれぞれ旧独立小国家のメンタリティを色濃く残している。

統一国家のイタリア共和国は、それらの旧独立小国家群の国土と精神を内包して一つの国を作っているのだ。だから政府は常に強い中央集権体制に固執する。

もしもそうしなければ、イタリア共和国が明日にでもバラバラに崩壊しかねない危険性を秘めているからである。

各都市国家の末裔たちは、それぞれの存在を尊重し盛り立てつつ、常にライバルとして覇を競う存在でもある。

イタリア共和国は精神的にもまた実態も、かつての自由都市国家メンタリティーの集合体なのである。そこに強い多様性が生まれる。

そして多様性は政治の過激化を抑制する。多様性が息づくイタリアのような社会では政治勢力が四分五裂して存在するそこでは、極論者や過激派が生まれやすい。

ところがそれらの極論者や過激派は、多くの対抗勢力を取り込もうとして、より過激に走るのではなくより穏健になる傾向が強い。跋扈する極論者や過激思想家でさえ心底では多様性を重んじるのだ。

2018年に船出した前述の極右同盟と極左五つ星運動による連立政権は、政治的過激派が政権を握っても、彼らの日頃の主張がただちに国の行く末を決定付けることはない、ということを示した。

多様性の効能である。

今回のイタリアの同胞が主導する右派政権もおそらく同じ運命を辿るだろう。

メローニ首相率いるイタリアの同胞は元々はEUに懐疑的でロシアのクリミア併合を支持するなど、欧州の民主主義勢力と相いれない側面を持つ。

「イタリアの同胞」はファシスト党の流れも汲んでいる。だがイタリア国民の多くが支持したのは右派であって極右ではない。ファシズムにいたっては問題外だ。

メローニ新首相はそのことを知りすぎるほどに知っている。彼女は選挙戦を通して反民主主義や親ロシア寄りのスタンスが、欧州でもまたイタリア国内でも支持されないことをしっかりと学んだように見える。

メローニ「右派」政権は、明確に右寄りの政策を打ち出すものの、中道寄りへの軌道修正も行うというスタンスで進むだろう。

それでなければ、彼女の政権はイタリアと欧州全体の世論を敵に回すことになり、すぐにでも行き詰まる可能性が高い。




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