イタリア語にOttobrata(オットブラータ)という言い回しがある。Ottobre(10月)から派生した言葉で、日本語に訳せば小春日和に近い。
小春日和は初冬のころの暖かい春めいた日のことだ。あえて言えば秋のOttobrataとは時期がずれる。だが、イタリアの秋は日本よりも冷えるから小春日和で間に合うようでもある。
Ottobrataも小春日和も高気圧が張り出すことで生まれる。ただOttobrataは小春日和のように1日1日を指すのではなく、数週間単位のいわば“時節”を示す印象が強い。
ことしのOttobrataはほぼ10月いっぱい続き、11月にまでずれこみそうだ。もっともイタリア語では、11月に入ってからの暖かい日々は「サンマルティーノの夏」と呼ぶ。
それは英語のインドの夏とほぼ同じニュアンスの言葉だ。
ことしのOttobrataは期間が長く気温も高い。そこで週末は遠出をしたり1泊程度のプチ旅行をしたりしている。もう10月も終わるが、好天が続いているので過去形よりも現在進行形で語りたい。
このまま晴天が続けば、「サンマルティーノの夏」にまでなだれこんで、12月まで寒さがやってこないかもしれない、と考えたくなるほどの陽気が続いている。
長すぎるOttobrataはやはり温暖化のせい、というのが専門家の見立てである。専門家ではなくとも、近年の異常気象を見れば何かがおかしいと推測できる。
イタリアはことしは冬、異様な旱魃に見舞われ大河ポーが歴史始まって以来の低水位にまで下がった。危険な状況は春には改善したが、夏には再び干上がって警戒水準が続いた。
夏の少雨は強烈な日差しを伴った。記録的な暑さが和らぐと普通に気温が下がるかと見えた。だがそれはほんの数日のことだった。
真夏の暑さは去ったものの、強い日差しが続いて、Ottobrataに突入したのだった。
近場を巡り、少し足を伸ばしてリグーリア州やピエモンテ州にも出かけた。ほとんどが日帰りの旅だったが、リグーリアとピエモンテではそれぞれ一泊した。
車で半時間足らずの距離の小さな湖や、そこより少し遠いヴェローナなども訪ねた。
食べ歩きをイメージした仕事抜きの旅は、夏の休暇を除けば初めての経験である。
最初は10月半ばの週末。リグーリア州に向かった。そこにはジェノヴァがありチンクエテッレがありサンレモがありポルトフィーノもある。
僕はそれらの土地の全てをリサーチやロケなどの仕事で訪れている。
先ずジェノヴァの隣のカモーリを訪れた。
カモーリは崖と海に挟まれた小さなリゾート地。ミニチュアのような漁港がある。
漁港では毎年5月、直径4メートルもの大フライパンで魚を揚げて、人々に振舞う祭りがある。僕は以前その様子を取材したこともある。
レストランやバールが連なる海岸沿いの通りの下には海がありビーチがある。通りの先にあるのがいま触れた港である。
ほぼそれだけの街だが、リゾートの魅力がこれでもかと詰め込まれた印象があって、全く飽きがこない。
通りを行き来して不精をたのしみ、美味い魚介のパスタと土地の白ワインを堪能した。
きんきんに冷えた白ワインと魚介パスタの相性は、昔食べたときも今回も、筆舌に尽くしがたい絶妙な味がした。