W杯出場チームの全てが顔出しを終え、1次ラウンドがさらに進行している11月30日の時点で、僕が最も注目しているのはスペイン代表だ。
スペインは初戦、7-0の大差でコスタリカを下した。スコアも驚きだが試合内容はもっと驚きだった。しばらく鳴りを潜めていたスペインの華麗で強いサッカーが蘇えったと見えたからだ。
そこではポゼッションサッカーの弱点である自陣でのボール回しが最小限に抑えられて、逆に敵陣内では最大限に発揮される理想の形が完成していた。
スペインは徹頭徹尾ポゼッション・サッカーにこだわる得意の戦術によって、2008年の欧州選手権、2010年のワールドカップ、2012年の欧州選手権と次々に制覇した。
当時のスペインチームにはシャビとイニエスタという天才プレーヤーがいて、ボール保持を最大限に維持しながら、ティキ・タカの速いパス回して相手を縦横にかく乱した。
だがその後は世界中のチームが彼らの手法を研究し、真似し、進歩さえさせて、じわじわとスペインへの包囲網を築いた。
イタリア、ドイツ、フランスなどの欧州の強豪国は特に、彼ら独自の伝統的な戦術にポゼッションサッカーを絡ませて磨き、ほぼ自家薬聾中のものにした。
そして2014年、ドイツが隆盛を極めていたスペインサッカーを抑えてW杯を制覇した。
続いて2016年の欧州選手権ではポルトガルが、2018年のW杯ではフランスが最後まで勝ち進んでスペインを退けた。
そして仕上げには、2020年((コロナ禍で21年に延期))の欧州杯をイタリアが制して、スペインのポゼッションサッカーの時代が終わった。
そこに至るプロセスは、シャビとイニエスタが第一線から退いていく時間ともほぼ重なっていた。
ところが衰滅したはずのその美しいポゼッションサッカーが、カタールW杯で復活したように見えるのだ。
初戦では偉大なシャビとイニエスタに代わって、18歳と19歳の天才プレーヤー、ガビとペドリが躍動した。
2人はまるでシャビとイニエスタの生まれ変わりのようだ。
コスタリカ戦ではペドリはパス回しの中核として動き、ガビはそこに絡まる一方で最年少選手記録に近いゴールまで決めた。
彼らの出現でスペインサッカーは、一昔前の黄金時代に回帰しつつあるのかもしれない。
スペインは11月27日、ドイツとの第2戦を1-1で引き分けた。
歴史的に見ればスペインを上回る実力を持つドイツは、スペインのボール保持と高速のパス回しに翻弄されながらもどうにか引き分けに持ち込んた。
スペインは7ゴールを決めたコスタリカ戦ほどの爆発は見せなかったが、ボール保持と素早いパス回しの戦術は健在だった。
今後彼らがポゼッションサッカーを武器に大会を席巻するのかどうか、僕はわくわくしながらTV観戦を続けようと思う。
ところで、11月30日現在で見る今回大会の優勝候補は僕の見立てでは:
スペイン、ブラジル、フランスが筆頭。もしもドイツが1次ラウンドを突破すれば、ドイツも彼らに迫る活躍をしそうだ。
4チームに続くのは強い順に、アルゼンチン、ポルトガル、オランダ、ベルギー、イングランド、ウルグアイと見る。
ゲームの予測を立てるのはほとんどの場合ムダである。
確率論に基づけばある程度の正しい方向性は見つかるのだろうが、選手とチームの心理的要素や偶然性が試合展開に大きくかかわるから、正確な予測は誰にもできない。
それでも人は予測を立てたがる。予測をすることが、ゲームそのものを見るにも等しいくらいに楽しい行為だからだ。
当たるも八卦、当たらぬも八卦。当たれば嬉しく、当たらなければ無責任に何もなかった振りをする。
そんなわけで、僕もサッカー好きな者の常で予測を立てておき、あとはほっかむりを決め込むことにした。