ルッテ知性的横顔650

これはあくまでも心証である。少しの楽観論も入っている。

先日、オランダのマルク・ルッテ首相が政界から引退すると表明したことに少し感服する思いでいる。

中道右派の自由民主国民党(VVD)を率いるルッテ首相はまだ56歳。

脂ぎった性格の者が多くいつまでも権力に固執する傾向が強い政治家らしからぬ潔さ、と感じるのだ。

ルッテ氏は2010年10月に首相に就任した。以来およそ13年に渡った在任期間はオランダ史上で最も長い。

オランダはほぼ全ての欧州の国々と同様に難民・移民問題で大きく揺れている。

同国は人口約1700万人の小国だが、歴史的に移民を受け入れて成長した多民族国家であり千姿万態が美質の国だ。

国土が狭く貧しいため、歴史的に世界中の国々との貿易によって生存を確保しなければならなかった。

宗教の多様性に加えて、貿易立国という実利目的からも、オランダは常に寛容と自由と開明の精神を追求する必要があった

オランダは国の経済状況に応じて世界中から移民を受け入れ発展を続けた。

だが近年はアフリカや中東から押し寄せる難民・移民の多さに恐れをなして、受け入れを制限する方向に動くことも少なくない。

保守自由主義者のルッテ首相は、流入する難民の数を抑える政策を発表。だが連立政権を組む中道左派の「民主66」と「キリスト教連合」の造反で政権が崩壊した。

ルッテ首相はこれを受けて、総選挙後に新内閣が発足した暁には政界を去る、と明言したのである。

僕は日本とイタリアという、よく似た古い体質の政治土壌を持つ国を知る者として、彼の動きに感銘を受けた。

イタリアにも日本にも老害政治家や蒙昧な反知性主義者が多い。加えて日本では世襲政治家も跋扈する。

日伊両国の感覚では、政治家としてはまだ若いルッテ首相が、あっさりと政界に別れを告げた潔さに、僕は知性の輝きのようなものを見るのだ。日伊の政治家とはずいぶん違うと感じる。

ルッテ首相が示したエリートまた教養主義的な面影は、得てして左派政治家に見られるものだが、この場合は保守主義者のルッテ氏であるのがさらに面白い。

大国ではないが政治的腕力の強いオランダを長く率いる間には、ルッテ首相は財政面でイタリアに厳しい姿勢で臨むなど、強持ての一面も見せた。が、印象は常に潔癖な知性派であり続けた。

そんなたたずまいも彼の政界引退宣言と矛盾しないのである。

そうはいうものの、しかし、ルッテ氏も権謀術数に長けた政治家だ。前言を翻して今後も政界に留まらないとも限らない。そこは少し気をつけて見ていようと思う。




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